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激しくも生き、されど終焉は … 穏やかに

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 季節は二月の早春。圓光寺の境内には気位が高い梅が咲いている。
 冬の名残なのだろう、冷たい風が頬を切って行く。しかし、時折り淡い梅の香を乗せ、充分に春を感じさせてくれる春風も吹いてくる。そして、どこからかともなく春を告げる鳥が、冷えた空気に浸み入るような声で鳴くのが聞こえる。
 梅の古木の向こうには、御高祖頭巾(おこそずきん)をまとった村山たか女が、女スパイらしく忍び姿で立っているようだ。そして、そっと会釈を送ってきてくれているような気もする。そんな情景がそこにはあった。

 高見沢一郎は毎日毎日仕事に追われる関西勤めのサラリ−マン。しかし世間には、その忙しさとは関係なく、好きな芸能人のオッカケをしている人たちがいる。特に女性たち、これが生き甲斐と仰って、人生をエンジョイされている。
 そんな楽しいことならば、しがない平成サラリ−マンにも、きっとオッカケ権利はあるはずだ。高見沢はそう信じ、仕事の合間を縫って、その権利を行使してきた。
 もちろんそのオッカケ対象は‘村山たか女’。ここ三ヶ月、まことに熱心だった。

 今から百七、八十年前、三十路過ぎの村山たか女。漆のような黒髪に、透き通る白い肌。たか女は月光の下に咲く白梅のようにしっとりと美しい。
 高見沢一郎は、そんな百七、八十年前の女性、村山たか女を追っかけてきた。
「俺も自分ながら、ほんとバカだよなあ。百年以上前に死んでしまった女性を追っかけてるのだから……。だけど、たか女は一体どんな女性だったのだろうか? 一度でも良いから逢ってお話しをしてみたいよ」
 高見沢はそう呟いて、たか女の墓にもう一度「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」と念仏を唱えた。それから中年の熱い気持ちを鎮め、圓光寺を後にしたのだった。

 高見沢が次に向かった所。そこは、村山たか女がその晩年、生涯を終えるまで暮らした言われる金福寺(こんぷくじ)。
 村山たか女は三条河原で‘生き晒しの刑’に合った後、金福寺で尼として十四年間を暮らした。そして、1876年(明治9年)に六十七歳で没した。
 圓光寺から金福寺まで、徒歩で十分もかからない。金福寺は実に小さな寺だ。高見沢は一通りの見学を終えて、「よっこらしょ」と南向きの縁側に腰掛けた。
「こんなところで、たか女さんは、生涯を終えたのか」と感慨深い。そして高見沢は、たか女を追っかけて、事ここに至った経緯ついてぼやっと振り返り始めた。