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激しくも生き、されど終焉は … 穏やかに

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 1852年(嘉永5年)、三十七歳の長野主膳は、彦根藩の藩校国学方として二十人の扶持に出世する。そして、より直弼の参謀としての地位を固めて行く。
 忙しくなった翌年の五月三日。長野はたか女を連れて、再び筑馬祭を見に行く。
 その時、たか女は四十四歳。その夜、たか女は長野に抱かれる。
 あの激しい一夜を共にしたのは、たか女が三十五歳の時のことだった。あれからもうすでに九年の歳月が流れてしまった。しかし、祭りのざわめきの余韻の中で、二人は狂おしいほどの行為に溺れる。
 たか女は、その美貌に陰りが生じてきていることを感じていた。しかしその反面、女の性はますます貪欲なものに……。
 幾度も突き上げてくる絶頂の中で、もう絶対に長野を手放したくないし、手放せない。そう確信した。
 そして、長野の愛人として、これからずっと生きて行くことを決心する。
 だが長野は六つ年下の男盛り。いつかたか女を捨てる時がくるかも知れない。心配だ。
 そのためか、村山たか女は──女の決意をする。
「この愛をつなぎ止めて行くためには、長野のためにどんなことでもしよう」と。

 高見沢はここまで妄想を膨らませ、ふーと重い溜息しか出てこない。
「たか女の元彼の直弼、彼は江戸で全国区のメジャ−な男へとどんどん昇進を遂げて行った。たか女はそれを見ながら、毎日何を思い、そしてどう暮らしていたのだろうか?」
 高見沢はたか女の心の内を探ってみる。
「しかし、たか女は直弼との愛の限界を知り、もうそれは実らないと確信した。その時から直弼とのことは、どうでも良くなったのではなかろうか。その代わりに長野との新しい恋を見付け、長野の女になって生きて行くことを決心した」
 高見沢は一人勝手に納得し、コクリと頷く。
「四十半ばのたか女、そこには女の焦りもあっただろうなあ。年下の長野、その愛をどうしても引き止めておきたい、そう思った時、もう何でもあり、どんなことでもして行こうと女の決意をしたのだろう。そしてその果てに──、スパイになってでも、長野の愛を繋ぎ止めようとしたのだったのかも知れないなあ」 
 高見沢は「うーん、なるほど」と一人頷き、その女の一途さに震えながら唸り声を上げる。
「村山たか女の蛇のような生き様、これぞ凄まじい!」
 しかし、これだけではまだ物足りない。高見沢はもっと深く、たか女の激しい心模様を知りたいと思うのだった。