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激しくも生き、されど終焉は … 穏やかに

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 1844年(弘化元年)、たか女は三十五歳。
 直弼からたか女への愛の絶頂は過ぎ、直弼の心が日に日に冷めて行くのが感じられる。たか女は寂しい。
 一方長野主善・二十九歳は、直弼からたか女の扱いについて相談を受けていた。
 たか女の寂しい気持ちが愛しく感じられる。またその悔しさもわかる。
 毎年五月三日になれば、琵琶湖畔の筑馬神社で、筑馬祭(鍋かぶり祭)が催される。長野はたか女の気晴らしにならないかと思い、誘った。
 そしてその夜、男と女の成り行きなのか、たか女は長野に抱かれてしまう。
 それはたか女にとって、長野主膳を直弼の愛の肩代りにしたいだけだったのかも知れない。そして長野にとっても、たか女の気持ちを思い、単に直弼の代役を勤めただけのことだったのかも知れない。
 しかし、二人は燃え上がった。
 五月のまだ肌寒い夜に、二人は無言のまま身体を重ねる。
 たか女は長野の若くて熱い体温にとろけ、その違った温もりをしつこく貪る。そして長野はたか女の冷えた肌に吸い付けられ、その心地よさに酔い、猛る身体を癒した。
 二人は一夜を掛けて、身も心も絡み合わせ尽くした。二人にとって、その夜は生涯忘れ得ぬ夜となってしまったのだ。

 高見沢はここまで妄想し、ふーと大きく溜息をついた。きっと軽くはない三人の心模様。それを考え、重く一人呟く。
「直弼は愛と打算の中で揺れ、結局男の打算を選んだ。それとは反対に、友人の長野は、友の愛人・たか女を寝取ってしまった。それは長野が官能の中だけで生きる国学者だったからなのか?」
 高見沢は縁側に座り、ぼーと庭の景色を見ながら思考を巡らせている。
「そして村山たか女、直弼の代役長野に抱かれなければ、もう生きて行けなくなってしまっていた。多分、女の幸せの絶頂から落ちて行く寂しさを感じていたのかも知れないなあ」
 遠くから春を告げる鳥の鳴き声が聞こえる。それに囁き返すように、高見沢は一人声にする。
「う−ん、そういう時の村山たか女が一番綺麗だったのだろうなあ。やっぱり一度でいいから、たか女に逢ってみたいよ」
 その後、再び自分が作成した年表へと目を落とす。