激しくも生き、されど終焉は … 穏やかに
高見沢は、自分勝手な主観で作成した年表、それを見ながら妄想に耽っている。
「1842年か、今から約百七、八十年前に、村山たか女、長野主膳、井伊直弼のそれぞれが異なった道を歩いてきた。そして女一人三十三歳、男二人二十七歳が赤い糸を手繰り寄せるように巡り合った。ホント不思議な縁、何か運命的なものを感じるよなあ。人の出逢いって案外こういうものなのかもなあ」
高見沢は一人感慨深く呟く。そして飽きずに、さらに妄想に落ち込んで行く。
時は1843年(天保14年)、村山たか女は三十四歳。めくるめく直弼との愛を育んで、もう四年が過ぎた。
たか女は一方長野に師事し、和歌を学んでいた。そんなたか女、彦根の町ではセクシ−・ウオマンと噂になったりもし、一番輝いていた時期でもあった。
たか女は年下の直弼・二十八歳の寵愛を受け、幸せな日々を送っていた。そしてこんな日々が永遠に続くことを望んでいた。
しかし、それはたか女の幻だった。
直弼はすでに正妻を持つ身。村山たか女の蛇のような女のしつこさが鼻についてきていた。
こんなたか女との愛の営み、それにそろそろ終止符を打つべきかと思い出している。そして、こんな心中を友人の長野に漏らすこともあった。
しかし、直弼は複雑な心境の中で、長野主膳に業務命令を下す。現代風に言えば、転勤。
長野はこれを受け、妻の多岐と共に上洛する。
多分直弼は、長野がたか女に恋をしていることを知っていたのだろう。そうならばいっそ譲ってしまえば良いものを、それも男心に未練が残る。
複雑に揺れる思いの中で、己の立場として、この夫婦のことを思い、まずは長野をたか女から遠ざけることとした。
そんな歪んだ男の友情、それがそこにあったのかも知れない。
作品名:激しくも生き、されど終焉は … 穏やかに 作家名:鮎風 遊