お下げ髪の少女 前半
少し行くと、駅前の雑踏に、あのお下げ髪の少女が立っていた。やがて、緒方に向かって彼女は、朝の陽射しの中を駆けて来た。真剣な表情だった。緒方は立ち止って後方を確認した。彼女の友達の女生徒の姿はない。
間もなく少女は緒方の前で立ち止まった。
「ごめんなさい。同じものをもう一冊買ったので、受け取ってください」
少女が差しだしているのは、アポリネールの詩集だった。緒方は茫然としていた。返すことばもなく、本を受け取った。少女は踵を返して走り去った。
その夜、再び緒方は泣いた。嬉しさのあまり泣いた。詩集には、手紙が挟まれていた。
ごめんなさい。
人の好意を無にしてしまうことは、
とてもひどい罪ですね。
どうかお許しください。
杉原美緒
それを見て、緒方は初めて少女の名を知った。
作品名:お下げ髪の少女 前半 作家名:マナーモード