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お下げ髪の少女 前半

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 レジのカウンターで若い女性の店員が、本にカバーをつけてくれている。緒方は再び背後に少女の気配を感じた。振り返ってみたい。振り向けば、少女は何か云うかも知れない。笑顔で、譲ってくれてありがとう。そんな場面を想像する。しかし、金縛り状態だった。
「お客様、お客様」
 やっと気付いて千円札を一枚、緒方はカウンターの上に置いた。つり銭と本を受け取り、彼は右方向へ歩き出した。少し歩いて振り向くと、あの少女ではなく、老婆の姿が見えた。緒方はガラスの扉に衝突した。
 駅までの距離は百メートルもない。その雑踏を、緒方はゆっくりと歩いた。彼は小宮が話していたことを思い出していた。彼は先週パチンコ屋で知り合った娘と、喫茶店に行ったという。そんなことが自分にできるわけはないと、緒方は思いながら聞いていた。だが、彼は立ち止り、あの少女がまだ書店に居たら、せめて名前だけでも訊きだしたいと思った。しかし、それは一瞬のことで、数分後には駅の改札を入って行った。
 大分待たされてから、彼は電車に乗った。扉が閉まる間際、走って来たのは間違いなくあの少女だった。彼女は緒方に何か云いたくて、走ってきたのではないだろうか。
 緒方は閉まろうとする扉の動きを止めた。扉をつかみ、渾身の力で頑張った。少女は眼の前に居て、驚いた顔をしている。左右から閉まろうとするドアには、まだ五十センチの隙間がある。早く、今のうちに……。