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お下げ髪の少女 前半

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 緒方の家の隣のアパートに、日本の国旗と日本刀を室内に飾っている男が住んでいた。
 ヤクザらしいと、近所では噂されていた。それがどんな男なのか、緒方は知りたくなかった。真夏に窓から日本刀が見えたとき、緒方は恐怖を覚えながら戦慄した。
 緒方の部屋にジャズの好きな四人が集合し、時々ジャムセッションをしていた。両親からのうるさいという苦情を、緒方は余り気にしていなかった。
 或る晩のことだった。四人の演奏が延々と続き、夜中になってしまったことがあった。午前一時頃だろうか、そこに近所の住人が怒鳴り込んで来た。ヤクザだった。眼を血走らせた角刈の男は、凄い剣幕だった。酒を飲んでいたのかも知れない。日本刀を持っていた。
「こらぁ!何時だと思ってるんだ、このガキどもがぁ!」
 それ以来、四人の演奏の場所は、墓地の中や、河原になった。
 緒方は姉の蔵書を借りて読んでいた。全て小説だった。面白そうに感じるものだけを読んだ。
 緒方は或る日、小泉の家へ行くと、初めて小泉の書いた原稿を読まされた。彼は小説家を目指していたのだった。なかなかの文章だった。
 その日以来、緒方もたどたどしく小説を書き始めた。小泉は才能がないからやめるべきだと、再三にわたって緒方を断念させようとした。だが、その努力は徒労だった。緒方は殆ど意味不明の文章を書きながら、どうしても諦め切れないのだった。