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お下げ髪の少女 前半

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 梅雨時になっていた。緒方は毎朝、その少女と顔を合わせていた。しかし、一度も口をきいたことはない。緒方邦彦は、ふた月余り前から少女に惹かれていた。ひと眼惚れだった。
 制服を見ると、少女は公立の普通科高校に在籍しているようだ。
 緒方は公立の工業高校の生徒だった。姉から命令されるようなかたちで、工業高校の電子科に入学した。電子工学というものは、好きな者だけが理解できる。
 緒方は国語と美術だけが得意だった。しかし、工業高校に美術という科目がない。
 彼は美術部に入部し、誰も来ない部室で石膏デッサンばかりやっていた。或いは、義兄の経営するジャズ喫茶で、レコードを聴いていた。
 店の客に頼まれて使用しても良いという条件でウッドベースを預かり、緒方の部屋で保管していた。彼はレイ・ブラウンのコピーをした。
 友人の杉原和正は、ジャズ・トランペッターを志向していた。彼はアイドルタレントのような顔の、小柄な少年だった。
 父親が元急進派の活動家だった、長身の小泉浩二はフルート。老け顔でニヒルな小宮俊尚がギター。いずれも同級生である。