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お下げ髪の少女 前半

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 少女はそれまで座っていた席の隣に居た、二十歳くらいの女性に頼み込んで席を譲ってもらった。ところが驚いたことに、そこに少女が座ってしまった。周囲からの非難の眼が集中した。次いで、天使を想わせるきれいな声で、少女は申し出た。
「おじいさん。そのお荷物を預からせてください」
 少女は老人から唐草模様の風呂敷包みを受け取ると、立ち上って一旦は座った座席に置いた。
「どうぞ、ここにお座りください」
 少女はにこやかな笑顔を見せながら云った。せっかく譲ってもらった席に、ほかの乗客が座るのを、彼女は巧みに阻止したのだった。素直に座った老人は、嬉しそうに何度も礼を云った。
 少女は読書に夢中のときが多い。緒方と同様、かなりの読書家らしい。希に同性の友人と話していることもある。その声が小鳥を連想するほど可愛らしい。ちょっと鼻にかかった、甘えん坊の声。だが、几帳面な性格を感じさせる、きちんとした発音だった。会話は学校での勉強に関することに限られていた。
 緒方にとって、彼女は衝撃的に可愛い少女だった。いつもお下げ髪だった。その髪も、眩いばかりに輝いていた。
 赤ん坊のように肌理の細かいきれいな肌は、どちらかと云えば色白だろうか。際立って大きくはないが、切れ長の眼が鮮烈だった。輝きが顕著な瞳。それは清冽な湧水のように、濁りは露ほどもない。すっきりとした鼻すじは、如何にも賢そうでいながら、生意気そうには見えない。可愛らしさの象徴的部分として極めつけの、明るいピンク色の唇は、どれほど意地の悪い人間でも、けなすことは不可能だろう。