お下げ髪の少女 前半
「なんだよ。ばあやって、おふくろさんのことだろ?」
「そうとも云うけどな。でも、あんまり遅く帰ると、結構うるさいんだ」
「最愛の息子ってえわけだな。でもさ、電話してさ、泊ってけばいいじゃん。明日は休みだしなぁ」
更にときめきが増した。お下げ髪の少女と一つ屋根の下で朝を迎えられるかも知れないのである。
「そうだな。電話するなら今のうちだな」
「じゃあ、下へ行こうか」
「そうしよう」
二人共立ち上がった。
電車の中では相変わらず美緒とは会っていたが、軽く会釈するだけだった。どうしても大胆に話しかけることができなかった。さすがに家の中ならば、会釈だけというわけにも行かないだろう。期待がにわかに膨らみ、息苦しいくらいだった。
同級生と共に階下へおりると、台所から包丁の音がしていた。杉原だけが音のする方へ行き、緒方は階段の下に取り残された。
杉原たちの両親は、教育研究全国集会に出席のため、遠方に出向いていた。それで美緒は遅い帰宅にもかかわらず料理を始めたのである。彼女は緒方が訪れていることを、知らない筈だった。
作品名:お下げ髪の少女 前半 作家名:マナーモード