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お下げ髪の少女 前半

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過分の富を追う必要はない。普通に働いて、平凡に生きて行こう。そして愉しみながら小説を書いて行こう。多くのひとが読まなくてもよい。自己満足と嘲笑われてもよい。書くことは愉しいことである。それだけでよい。歴史に名を刻まれる必要はない。
「おーい。緒方。死んでないか?」
「かろうじて、なんとか生きてるよ」
「とうとう夏の名残も消えて、寂しい秋になったな」
「虫の声が聞こえるねぇ」
「腹の虫も哀しく鳴いているねぇ」
 それに重なって、階下で玄関の扉が閉まる音がした。
「あいつ、やっと塾から帰ってきたな」
 青いカーペットの床に寝ころんで、読んでいた本を緒方は閉じた。
「あいつということは、もしかして……」
 ときめいていた。
 杉原も本を読んでいた。
「云わずと知れた俺の可愛い妹よ……もう九時半か」
 初めて訪れた杉原の部屋には、山の写真がたくさん飾られていた。
「えー!九時半?門限までに帰らないと、ばあやに叱られるよぉ」
 笑顔の美緒が、写っている写真もあった。緒方はその一枚を手に入れたいと思っている。