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お下げ髪の少女 前半

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第4章 文通ごっこ



締切直前に、緒方はどうにか百号の絵を納入した。彼は追加費用を請求しなかった。
自室から百号のキャンバスがなくなると、寂しい気持ちだった。虚しさを感じていた。
本当に描きたい絵を、百号に描いてみたい。
緒方が本当に描きたいもの。それは風景だった。日本の街は描きたくない。新建材でできた家など、何の風情もない。
 やはりヨーロッパだ。石造りの重厚な佇まい。そうした建築物の群れが織りなす風景。
安物のカメラを首からぶら下げて、夥しい日本人観光客たちが素晴らしい風景の中を今も闊歩している。相当の費用をかけて海外旅行へ出掛けても、数年も経てば、見聞きしたことの殆どを忘れてしまう人は多いに違いない。
どうしてもそこへ行きたいと、痛切に願う人間が、経済的問題のために、絶対に行けない。どれほど働いても、どれほど節約しても、工業高校出身の工場労働者には、その地を踏むことは決して許されない。食うや食わずの生活からは、死ぬまで脱出できない。
しかし、救いはある。絵画制作を棄てればよい。
その代わり、小説を書くのだ。小説ならば、紙と鉛筆だけで書くことができる。日本という国だけで生き、日本人だけが登場するドラマを書き続ければよい。これから先五十年、六十年の間には、様々な出会いがあるだろう。想いもよらぬ出来事にも遭遇するだろう。多くの哀しみが待っているかも知れないが、多くの喜びも用意されている筈なのだ。