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お下げ髪の少女 前半

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第1章 ひとめ惚れ



 電車がその駅に滑り込むと、風景の流れが減速したガラス窓の外を、右端から移動してきてやがて停止したその少女の、衝撃的に清楚な紺色の制服姿が目立っていた。
 際立って端正な顔立ちの彼女は、お下げ髪の少女だった。
 扉が開いて乗車してきたときに、車内にいた友達らしい少女に向かって手を上げ、美少女はにこっと笑った。
 いつもの朝の電車の中で、黒い学生服の緒方邦彦は本を開いたまま、茫然とそれを見ていた。気が付くと彼だけではなく、多くの乗客が少女を見ていた。
 そのとき、突然あでやかな花が、眩いばかりに咲いたようだった。笑っていないときの顔と、笑ったときの落差が大きい。細めだが、痩せ過ぎているという印象ではない。やや、小柄かも知れなかった。
 その日以来、いつも少女は先頭車両に乗車した。空いていれば座席に座ることもあるが、混んでくると立ち上がる。緒方はその駅に電車が入る前に、そのときまで読んでいた小説の文庫本を閉じるようになった。


 それは五月に入って間もなくのことだった。或る朝、少女が乗った次の駅から、三人の老人が乗車して来た。少女は躊躇うことなく立って席を譲った。老人の二人までは座れたが、残りの一人が座れない。