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お下げ髪の少女 前半

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幼いころ、彼は父に虐待されていた。何度も殴られた。軍隊ではこんな程度じゃ済まないんだぞ、と怒鳴られながら、度々殴られた。
緒方は女性も恐れていた。母や姉には逆らったことがなかった。
小学生の頃の彼は、女子には非常に人気があり、毎日のように誰かの家に呼ばれて歓待された。御馳走三昧だった。
そのせいなのか、同性からは虐められた。ドッジボールが嫌いだった。いつも標的にされた。その頃は走ると誰よりも速く走ることができた。絵を描かせれば、教師は天才だと云って誉めた。ガキ大将的な同級生が、緒方の次に足が速く、その生徒は絵も緒方の次に上手だった。それが悔しくて緒方は常に村八分にされ、虐められた。
「緒方。今日、忙しくなかったら俺の家の方に来ないか」
トランペットのケースと鞄をそれぞれ両手に持って接近して来たのは、杉原だった。緒方は美緒のお下げ髪を想い浮かべた。杉原は夏休みの間に急に背が伸び、緒方と殆ど同じくらいになっていた。
「ちょっと忙しいんだ。絵を頼まれたから……」
二人は並んで歩き始めた。