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お下げ髪の少女 前半

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第三章 触れ合う肩



緒方が下校するために校舎から出ると、放課後の校庭にトランペットのきらびやかな音が響き渡っていた。広い校庭には練習中の各運動部の部員たちが、それぞれ汗を光らせながら頑張っていた。
緒方は陸上競技の短距離走の選手として、オリンピックに出ることが夢だった。その夢を棄てたのは、中学一年の終わり頃だった。彼は車にはねられてしまったのだった。急停止した車から落ちついた様子で現れたのは、中年の女性の運転者だった。緒方は膝を強打して歩けなかったが、「大丈夫です」を連呼した。女性は「今度から気をつけるのよ」と、
云うと、あっさりと車に戻って去った。緒方は警察官恐怖症であり、警察署は絶対に行きたくないところだった。病院も嫌いだった。
 事故現場は狭い道路の両側に、路上駐車の車がぎっしりと並んでいるところだった。車一台がやっと通れるところを、その車はかなりの速度で走ってきた。緒方は突如現れた車にはねられたくないと云う想いで、路上駐車の車に背中を押しつけた。それでもはねられた。恐らく女性ドライバーは過去何十回も、何事もなくそこを通過していたに違いない。
緒方はその事故に遭って以来、走ると膝が痛み、陸上競技部をやめた。緒方は極端に気が弱く、常に人を恐れていた。