お下げ髪の少女 前半
第2章 油絵
緒方の住まいから小泉の家までは、歩いて五分だった。ふたりは、一緒に通学することもあった。小泉の様子を見ていると、彼も美緒に惹かれているのかも知れないと、緒方は感じていた。
だが、ふたり共少女への想いを秘していた。緒方は自らの想いと、美緒の魅力について、誰かに話したかったものの、小泉には勿論話したくなかった。
二学期が始まってから、早くも二週間が過ぎると意外に涼しくなった。
その日の午後、緒方の義兄の店「ニューポート」に、緒方と小泉、そして小宮の三人が集まっていた。カウンターの中の緒方が淹れたコーヒーを飲みながら、三人はジャズに聴き入っている。その日、緒方は義兄から店番を頼まれていた。
店はよくあるスナックバーを居抜きで借りたもので、カウンターのほかにはテーブル席が二つだけの手狭さだった。ジャズのLPレコードは、二百枚に近い数になっていた。そこは、緒方の、お気に入りの場所だった。
ステレオのスピーカーからは、マイルス・デイビスのトランペットのソロが抒情的に流されていた。
作品名:お下げ髪の少女 前半 作家名:マナーモード