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表と裏の狭間には 八話―運命の文化祭―

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…………。
見なかったことにしよう。
……………。
校庭に来たことを後悔した。
博霊の巫女や、東洋の西洋魔法使いや、吸血鬼やメイドや門番や幽霊や妖怪や九尾や玉兎やや河童や天狗や神や鬼やぬえのコスプレをした連中が、闊歩しているのだ。
ええー。
どこの幻想郷ですかここは?
「お兄ちゃん。ここの学校、大丈夫?」
「の……はずなんだが。」
輝か?あいつの仕業か?
まあ、深く考えてもダメだろう。
校庭の屋台は祭りのようなものが並んでおり、焼きそばや焼き鳥、ポップコーン、綿あめ、ジュースなどを売っているものから、ヨーヨー釣り、射的などの遊びの屋台もある。
「ほら。どれがいい?」
「あ、あれ!あとあれも!」
雫が指差すままに買ってやる。
ただの学生レベルの食べ物なのに、とても嬉しそうに食べる雫。
なんというか、まあ。
この笑顔だけで、もう何もかもいいや。
そう思わせてくれる笑顔を浮かべながら。
雫は、文化祭を楽しんでいるようだ。

ばったりと遭遇した。
何に?
回答はこうだ。
デート中の煌とゆりだ。
「でっ、デートじゃないんだからね!」
開口一番(邂逅一番でも間違いではない)、ゆりはそう叫んだ。
「まあ、そういうことだ。」
「つまりデートなんだね。」
「デートじゃなぁああああああああああいっ!」
ゆりが子供みたいに手をバタバタ振っている。
赤面具合は最高潮だ。
「わ、わわわわ、私はっ!ただ仕方なくっ!ししし仕方なく煌とっ!ま、回っていただけなんだからねっ!」
噛み噛みだなー。
「ゆりさん、やっぱりそうだったんですね。」
「べっ別に、煌のことなんて好きじゃないんだからっ!」
「いえ、そういうことを言ったんじゃないんですけど………。」
墓穴を盛大に掘っていた。
「で?お前らは?」
煌がゆりを放置して俺たちに話しかけてくる。
「俺は見ての通りだよ。雫を案内してる。まあ校内案内を兼ねてな。」
「そうか。雫ちゃん?うちの文化祭はどうだ?」
「楽しいです!本当にいい学校ですね!」
「そうか………正直に言っていいんだがな……。」
「……コスプレ多いですね。」
「うん………なんか………すまん。」
煌が本気で謝っていた。
「はぁ………あんたたちこそ、兄妹でデート?」
「まあ、男女二人で歩くってことをデートって呼ぶんなら、そうなんだろうな?」
そう言うと、今度は雫が爆発した。
「ひゃわわっ、お、お、お、お兄ちゃんと………ででで、デートっ!」
こいつもこいつでどうしたんだろうな?
「雫ちゃーん?お兄ちゃんとはその後どうなの?ん?ん?正直に言っていいのよ?どこまで行ったの?」
ゆりが仕返しとばかりに雫に絡んでいた。
おい、いい加減にしてやれ。
「あ、あう。あう、うぅ……。」
雫は真っ赤になって、口をパクパクさせて凍っている。
「おいゆり。時間は大丈夫なのか?」
煌がそう言うと、ゆりはハッとして携帯を確認する。
「ヤッバ!紫苑、雫ちゃん!またね!」
そして、一気に駆け出した。
「まあ、ちょっと急いでるんだ。じゃあな。まあ、ステージでも見てろ。」
煌も後を追う。
……ステージ?

煌に言われたとおり、一応ステージに来た。
今のショーは………言いたくありません。
「ふぁぁあああ。」
「お兄ちゃん眠そうだね。」
「まあな……ま、心配すんな。」
適当な会話をしつつ見ている。
と、今のショーが終わり、次に移った。
そこには。
「はァ!?」
「え!?ゆりさん!?」
突如ステージ上に現れ、『Crow Song』を演奏し始めたのは。
ゆりだけじゃない。
耀や、理子も。
もう一人知らない人がいるけど。
『背後にはシャッターの壁………指先には――』
「よう。」
声をかけられた。
煌だ。
「煌、何だこれは?」
「見ての通り、ゆりのゲリラライブだ。」
「いやーマジでやってたんすね。」
「輝!?」
「……ふむ。見事なものですね。」
「礼慈まで!?」
気付けば、俺の仲間全員がここに集まっていた。
「わわわ、皆さんどうしたんですか?」
「まあ、ゆりがな。『雫ちゃんに見せるわよ!』とか言ってな。」
「ええ!?でも俺、雫をいつ呼ぶかなんて一言も――」
「だからゲリラライブなんすよ。今ステージの袖では大騒ぎになってるっすよ。」
「……要するに、掌握した人間関係を用いて強行ライブを行っているわけです。まあ、彼女は理由が欲しかっただけで、どの道やる気だったようですけどね。」
「…………。」
言葉を、失った。
ゆり。
雫のために、そこまでするか。
雫も言葉がないようで。
ライブはそのまま三曲行われた。
あいつらの演奏技術も中々のもので、最初は戸惑っていた観客も、次第にノッてきて。
とんだサプライズイベントだよ。
まあ、雫が満足そうにしてたから、いいか。

文化祭最終日。
私は、この日が楽しみで楽しみで仕方なかった。
初日と中日は、運悪く紫苑君とシフトがずれてしまったけど。
今日は、紫苑君と一緒に文化祭を回る。
それが楽しみで、昨夜は中々眠れなかったくらいだ。
「おはよう、紫苑君!」
「ああ、おはよう、蓮華。」
登校してきた紫苑君と挨拶を交わす。
「今日、い、一緒に回ってくれませんか?」
「うん?いいよ。今日は暇だったし。」
やったぁ!
浮かれつつも、私は中々切り出すことが出来なかったけど、あっさりとOKがもらえた!
それだけで、もうなんか十分な気がする。
なんてやっていると、文化祭最終日が、幕を開けた。

紫苑君と校庭を回る。
私たちは、まず目についた射的のお店に向かった。
「奢るよ。」
「いいですよ。自分のお金で。」
「いや、奢るって。」
と、紫苑君に押し切られてしまい、銃を手に取った。
「えっと、当てたら貰えるんですよね?」
「はい。」
それを聞いた私は、店員さんに――
「いや、僕は景品じゃないんで。」
なんてお約束のやり取りをしつつ、私は、目についたあるものを狙った。
それは、とても小さい的で、五発とも外れてしまった。
私は、自分のお金でもう一度挑戦したけど、結果は同じだった。
「蓮華?」
「あ、いえ。なんでもありません。じゃあ、次行きましょう。」
「あ、じゃあ、俺も一度やっていい?」
ということで、紫苑君も挑戦することに。
弾を受け取り、ライフルを構える紫苑君。
……その姿が、妙に様になっているのは何でなんだろう?
紫苑君は狙いを定めると(その狙い方がまたプロっぽいそれだった)、弾を放つ。
すると、さっきまで私が狙っていた的を、掠めた。
(すごい………!)
私がどれだけ撃っても、掠りもしなかったのに。
二発目。
今度は、ど真ん中に命中した。
「すごいですね紫苑君!」
「いやぁ。それほどでも。」
なんて照れつつ、商品を受け取る紫苑君。
「あれ?これって……?」
「はい。一日無料ペアチケットの引換券です。」
その後は、まず本部でチケットを貰い、屋台をこれでもかと回った。
紫苑君とお化け屋敷に入って、思いっきり悲鳴をあげて抱きついてしまったり。
輪投げで見当違いの方向に飛ばす紫苑君にちょっと噴き出してしまったり。
ジェンガ大会で優勝した紫苑君の器用さに驚いたり。
紫苑君と講堂で演劇部の劇を見たり。
そんな風に文化祭を楽しんだ。
ついつい、本題を忘れちゃうほどに。