こんな夢を見た
第四夜
こんな夢を見た。
ビーーーーー
『通報しました』
おい、どういうことだ。俺はあまりのことに言葉を失った。
いつも通り、改札に定期を翳しただけだ。
何もやっちゃいない。
なのに改札は異音を立て、俺の行く手を阻んでいる。
しかも通報しましただと?冗談じゃない!
俺は行かなきゃいけない。
どこへ?俺も知らないどこかへ。
行き先を知っているのは、俺たちを操る運命だけ。
足元のトランクが音を立てた。
勘弁してくれ、今はトイレに行っている場合じゃない。
猫のようにうずくまって込められている、小柄な彼の姿を思い出す。
彼がそうしろと迫るので、手足を縛り、目隠しをして、ご丁寧に猿轡まで嵌めてやった。
彼は今、とても人が入るサイズではない、しかし長旅用のトランクの中で、大きな目を潤ませ小動物のように身を震わせているのだろうか。
愛しくて可哀相な俺の恋人。
彼が苦しんでいると、俺の胸は高鳴る。
ああ、意識すると、頬が熱くなる。
ビーーーーー
とにかく今はそれどころではない。
人通りのある駅の真ん中で、改札は尚も俺たちを足止めし続ける。
しかし妙だ。
こんなに目立っているのに、誰もこちらを見ないし駅員すら来ない。
俺たちだけが、小川の岩に引っかかる木の葉のようにごく自然に、浮かびあがっている。
これはチャンスかもしれない。
俺は口角を上げ不敵に笑うと、改札の戸を体当たりでこじ開けた!
ダンッ!
思いの外抵抗の少ない戸にたたらを踏むと、トランクから「ひっ」と情けない悲鳴が上がる。
駆け抜ける快感に、鋭く息を呑む。
恍惚とする間もなく、俺はその場から逃げなくてはならなかった。
今の衝撃音で、周りが一斉に俺たちに気付いたからだ。
情熱に火を付けたまま、トランクを抱えて階段を駆け上って行った。
目的などない、二人の欲望を満たすためだけの逃避行が、慌しく幕を開けたのだ!