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こんな夢を見た

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第三夜




こんな夢を見た。


 万世橋の袂に、イルカがいるらしい。
 俺はその言葉を受け、喜んで駆けつけた。
 ビーサンをひっかけ、アロハシャツに短パン、浮き輪を小脇に抱えて、気分は海水浴だ。
 生憎この日は晴天とはいかなかったが、俺はわずかな夏休みを謳歌してやろうと思う。
 橋の上に出来たオープンカフェから、準備体操もせずにお堀に飛び込んだ!
 

 俺は浮き輪で波に揺られながら、すっかり観光名所と化したお堀を眺めていた。
 子供たちが、数頭のイルカと戯れて嬌声を上げている。
 イルカもキュイキュイと楽しげな声を出している。
 俺も楽しい。
 チャイナブルーを煽って、さらにご機嫌。
 

 しかし気になることがある。
 中央線快速の高架下、神田に繋がる飲食店が軒を連ねている。
 その隙間から、ぎっちりと、曇り空より濁った眼のガキどもがこっちを見ていやがる。
 男も女も黄ばんだシャツを着て、髪もぼさぼさ。
 何であんな状態で、学級1つ分くらいの中学生共が放置されているんだ?
 

 ああ、そんなもの欲しげな目で見ないでくれ。
 俺の現実が帰ってきてしまう。


 イルカがキュイキュイ鳴いている。
 チャイナブルーを飲み干して、俺はお堀を潜り、イルカたちに泳ぎ寄る。
 ツルツルした肌を撫で、そっと接吻する。
 少しの間だったが、楽しめて良かった。
 お別れの時間だ。


 今にも雨が降り出しそうだった。
 はしゃぐ子供やイルカたちが、今では暗く沈んだ色に染まって見える。
 俺はワイシャツとチノパンに着替え、薄汚れた町を行く。
 これが俺の現実。
 これからあいつらを保護しに行かないといけない。
 気付いているんだ、通りのどの人間よりも、俺の瞳が濁りきっていること。


 油で汚れた廊下の中の、テラテラ不衛生に光る木戸を、ノックもせずに開けた。
 中にはびっしりと、汚れきったガキども。
 一様に、曇り空みたいな目をしている。
 「ほら、飯作るぞ」
 買ってきた大量のジャガイモ、人参、玉ねぎ、カレールーを放り出す。
 澱み切った曇り空に、薄日が差すのが見えた。


作品名:こんな夢を見た 作家名:幾田宴