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こんな夢を見た

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第二夜




 こんな夢を見た。


 ばたばたと足音がして、妹が洗面所に飛び込んでくる。
 「ちょっと!お姉ちゃん急いでいないんだからどいてくれる!?」
 確かに時間に余裕はあるが、あんまりな言い草である。
 それなのに、我が家では妹の方が発言権が強い。妹は、小柄な身体をふんぞり返らせて命令するのだ。
 「どいて!」
 私は、マスカラを手に、仕方なく洗面台からどいてやる。


 我が家、といったところで、この部屋には二人しか住んでいない。
 父は単身赴任で海外だし、母は病で亡くなってしまった。
 生活力の皆無な私は、家事全般が出来る妹に頼りきりで、何不自由なく生活させてもらっている。
 何不自由なく。いや、プライバシーも何もないワンルーム暮らしでは、不自由なことがなくもないのだが。
 そんなことを言っていたら、妹に部屋を追い出されてしまう。


 妹は歯ブラシを咥えながら、テキパキと洗濯の準備をする。
 「今日は一日快晴だっていうから、シーツ洗っちゃいましょ」
 歯ブラシを動かしもせずに、私がさっきまで寝ていたシーツを引っぺがして、洗濯機に放り込む。
 使わないんなら鏡使いたいんだけどなあ。
 ぼんやりと佇んでいると、妹は洗濯機の脇から洗剤を取りだした。


 それにふわ、と息をかけると、ゆら、と細かいシャボン玉が宙へ広がる。


 私はやはり呆けたまま、シャボン玉の行方を見守っていた。
 風に揺られ、窓の外へ誘われていく。
 しかし、一定の範囲でシャボン玉は動きを引き返す。
 よくよく見ると、シャボン玉の表面には微細な数式が刻まれていて、虹色に巡っている。
 数式を揺らめかせたシャボン玉は、妹の掌を中心に、どれひとつ飛び出すことなくゆらゆらと旋回していた。
 魔法みたいだな、と私は目をまんまるに見開いてその様子をみつめていた。
 妹は訝しげな顔で吐き捨てる。
 「お姉ちゃん、こんなこともできないの?」


作品名:こんな夢を見た 作家名:幾田宴