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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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こんばんは ⑥<蕪鍋(かぶらなべ)>

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 中村は目には何処か異常な光を宿している。
「そうかい、お前も自分の出世の道を守る為にか……。さあ、宴会は終わりだ。俺がついてってやるから署に出頭しようや」
 立ち上がろうと中村に背を向けてコタツに手をついた大島の後ろで奇声があがった。
「うわぁ!」
 両手を万歳の形に上げた格好で、中村が驚きと恐れを浮かべた様な顔で大島を睨んだ。全身に力を入れているのか中村の額にはうっすらと汗が滲んでいた。
「どうしたい、金縛りにでもあったか? 俺も時々あうがな、別に悪いもんなんかじゃねぇよ」
 大島が中村に近づきながら静かに話し掛ける。
 中村の両腕はまるで貼り付けにでも有っている様に微動だにしない。しかしそれ以外は自由になるのか、脂汗を流しながら身体を右に左にと必死に捩っている。
「すまねえな、俺がついてりゃ……」
「おやっさん、まさかそんなチカラを?!」
 中村の顔にはもはや恐れだけが貼り付いている様である。
「俺じゃねぇ。言っただろう、俺には今でも若いままの女房がってな? 俺が武道を十段持ってても使わねぇで済むのはそういう訳だ。なんでも今のお前みたいに頭に血を上らせたヤツは自由を奪いやすいんだそうでな――。
 この部屋で女房が死んだ時にな、あんまり俺の懇願が強かったのか、女房のヤツ成仏できずに残っちまったのよ」
 大島は手を延ばしてコードレスホンの受話器を取った。
「始めの半年くらいはこの部屋だけに居たんだが、一人じゃ退屈だったんだろう。しまいにゃあ仕事にまでついて来る様になっちまってな――」
 大島は照れた様に打ち明けた。まるで言い訳でもする様に。
「さあ、そいつは俺が貰おう」大島は中村の右手から包丁を抜き取ると、反対の手に電話機を握らせた。
「電話くらいは出来るはずだ、自分で警察に掛けるんだな」
「……」
 無言で又コタツに足を入れると、大島はコップに残った酒を飲み干した。
 火がついたままの鍋の中では蕪がすっかり煮崩れてとろとろに溶けてしまっていた。


 おわり

       2003.09.27

№054