【第七回・伍】ごー・あ・(田)うぇい
「俺を呼ぶのは誰ぞ~?」
ぬちゃりぬちゃりとぬかった泥をこいで中島が生徒の垣根ができている土手に近づく
「んも…きゃぁッ!;」
生徒の垣根を掻き分けてきたヨシコが何かに足を引っ掛けたのか前のめりになって中島めがけて倒れてきた
「だぁッ!!;」
バシャ-------…
春を半分過ぎた時期にちょうどいい風が少し強めに吹く中小声でのざわめきが広がった
「…オイ…;」
耳元で聞こえた声にヨシコがゆっくりと目を開ける
「重い」
二言目の言葉でヨシコが目を見開いて起き上がった
「な…」
ヨシコの下には半分田んぼに埋まった中島
「…何してんの?」
そんな中島の上からどこうとせずにヨシコが真顔で中島に聞く
「お前が勝手に俺に倒れ掛かってきたんだろうが!!; 早くどけよ重い」
頭だけを何とか起こして中島が怒鳴る
「…どけって…言われても…」
周りを見てヨシコガ呟いた
「…俺の体踏んで飛びゃぁいいだろ。お前ならできんだろ?」
中島が言う
「…踏んでって…いいの?」
ヨシコが中島を見る
「いいってんだろ; 俺は早くどいて欲しいんだよ…;」
中島が疲れたのか頭をまた泥に落として再びまた頭を起こした
「それともどっか怪我とかしたんか?」
中島が聞くとヨシコが驚いた顔をした後首を横に振った
「救護班~到着~」
板を持った南と京助、坂田が中島とヨシコの周りに集まった
「ハイハイ~ヨシコちゃん立って~板に乗って~飛ぶ!」
南がヨシコの手を引っ張って立たせると板を田んぼの上に置いた
「ハイハイ~柚汰君は俺等につかまって~」
坂田と京助がヨシコのどいた後に中島の両腕を持って引っ張って中島を起こした
「いんや~災難だったなでっかいの」
土手の上で阿修羅がひょうひょうと笑いながら言った
「うっへぇ~; 泥臭せぇ;」
中島が背中全体泥まみれになった自分の匂いをかいで顔をしかめる
「あっちにたしか小川あっただろ?洗いに行くか?頭だけでも」
京助が右方向を指差して言う
「お~い! 皆の衆~使ってないタオルとかあったら貸してくりゃれ~」
南が生徒群に向かって叫ぶ
「何~誰かカッパしたん?」
【解説しよう。『カッパする』というのは『ひっくりがえる』または『水の中で転ぶ』という意味である】
「中島~」
南が中島の名前を出すとタオルを手に持った生徒が数名笑いながら集まってきた
「うっわ~泥だらけや~ん;」
南にタオルを手渡しながら男子生徒が苦笑いで中島を見る
「名誉あるカッパなんだぞ~」
先に土手に上がった京助が中島の手を引っ張る
「人命救助さ人命救助」
中島の尻を押しながら坂田が言う
「おうよ」
土手に上がった中島が腰に手を当てて胸を張った
「なっかじっまくんッおっはいんなさいっ」
南が手招きして小川の中に中島を招きいれようとする
「いい感じに冷てぇぞ~い; 風邪引かねぇか?;」
京助が先に小川に手を突っ込んで洗い中島に言う
「泥乾いてきて後ろカッパカペで重てぇんだわ;」
中島の髪や服についた泥が乾いて固まってきている
「でもさ~なんだかんだ言ってもヨシコちゃんを抱いたわけだし役得じゃん中島さんよ」
小川の中に入った中島をしゃがみこんで見下ろすと南がニヤニヤ笑った
「抱くっつーか…別に…ただ倒れてきただけだし?」
借りたタオルの一枚を小川の水につけて下を向き頭をぬらして泥を流しながら中島が答える
「柔らかかったんじゃねーの? 乳とか乳とか」
手を洗って小川から上がった京助が中島を見下ろして聞いた
「柔らかいもなにも感じ取るヒマねぇってんよ;…まぁ…しいていうなら…」
もう一枚タオルを濡らして仕上げに髪を拭きながら中島が頭を上げた
「しいて言うならなんだよ」
早く次の言葉を言わない中島に坂田が突っ込む
「重…」
ミシ…ッ
中島が言い終わらないうちに何かが軋む音がして京助達の視界から中島の頭が消え紺色の二本の足が現れた
作品名:【第七回・伍】ごー・あ・(田)うぇい 作家名:島原あゆむ