小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

榊原屋敷の怪

INDEX|9ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

「逃がしはしない……」
女が不気味な声で呟いた。
叔母さんのライトが女の顔に向けられる。
その表情には邪悪な笑みが浮かんでいた。
私と叔母さんはじりじりと後ずさった。
そんな私をあざ笑うかのように女は嘲笑を浮かべながら私たちに迫る。
私たちは再び問を潜って屋敷の中に戻った。
くそ……これじゃ屋敷から出られない……。
「貴様ら……ここで死ね……」
狂った笑みを浮かべながら女は刀を振り上げる。
私は反射的に目をつぶり死を覚悟した。
……しかし私はまたあのワンちゃんに救われることになった。
目を開けるとワンちゃんが女の手に食らいついて戦っていた。
……私たちを助けてくれているのだ。
「……何をする……離せ……!」
女はワンちゃんを振り落とそうと抵抗していた。
しかしワンちゃんは凄まじい力で食らいついているためか離れようとしなかった。
その際に女の手から刀が落ちる。
叔母さんはそれを見逃さずすかさず拾い上げた。
「叔母さん、早く逃げよう!」
私は手を引いて叔母さんを急かす。
叔母さんはズボンの間に刀を差してから私の言葉にうなづき、私の手を引っ張って駆け出した。
この闇の中をうろつくわけにもいかず屋敷の中に戻る。
明かりが付いていないため屋敷の中も真っ暗闇だが、それでも外よりは安全だろう。
その時屋敷の外からキャインというワンちゃんの甲高い叫び声が聞こえた。
私は反射的に足を止めて振り返る。
「ワンちゃん……」
「何止まってるの!早く逃げるのよ!」
叔母さんにすごい力で引っ張られて私は再び駆け出した。
「とにかくどこかに隠れるのよ」
叔母さんが周囲を懐中電灯で照らして隠れ場所を探す。
そして叔母さんのライトは木製の扉の照らし出した。
たしかこの部屋は……。
「この部屋に隠れるしかないわね……」
苦々しげに言いながら叔母さんは扉を開いた。
そして私たちは部屋の中に入る。
部屋に入ると叔母さんは錠を下ろして扉に鍵を掛けた。
「さて……いずれここも見つかるわ。となれば……」
言いながら叔母さんは懐中電灯の明かりを床扉に向ける。
「この下に逃げるしかないわね」
そう言いながら叔母さんは床扉に近づく。
床扉に到達すると叔母さんはしゃがみこんで床扉を調べ始めた。
それから口を開く。
「うん。やっぱりこの扉壊せるわ」
そう言うなり叔母さんは刀の柄を床扉に叩きつけた。
大きな打撃音が周囲に響き渡る。
「叔母さん。これじゃあ見つかっちゃうよ!」
「何もしなくてもいずれ見つかるわ。だったら何もせずに見つかるより何か行動を起こしてから見つかる方がよっぽど良いでしょ!」
言いながら叔母さんは再び柄を床扉に叩きつけた。
徐々にあの冷たい冷気が漂ってくる。
ギシギシと足音がこちらに近づいてきた。
来る……あの女が来る……。
「叔母さん早く……!あの女が来るよ……!」
「もうすぐ終わるから黙ってなさい!」
足音が扉の前で止まる。
凄まじい冷気が部屋全体を包み込んだ。
「叔母さん……!」
次の瞬間バキン!という錠前が砕け散った様な音が部屋中に響く。
それと同時にあの女がすーっと扉を通り抜けて部屋の中に入って来た。
叔母さんが急いで床扉を開きその中に入った。
「真理ちゃん早く!」
叔母さんが私に向かって叫ぶ。
「逃がすものか……」
女が呟いた。
絶対に捕まるもんか……!
私は全速力で床扉に向かい中に入った。
床扉の先は周囲を岩に覆われて洞窟の様になっていて、階段が作られていた。
その一番したで懐中電灯を持った叔母さんが待ってくれている。
「段差に気を付けて。足元を照らしてあげるわ」
そう言って叔母さんは私の進路をライトで照らしてくれた。
私は一段一段落ち着いて階段を下りる。
その時あの女も床扉の中に入って来たのが背後の気配で分かった。
この通路も冷気で満たされる。
「真理ちゃん落ち着いて。ゆっくり、ゆっくりよ」
叔母さんのアドバイスを受けて私はなんとか階段を下り切った。
「さぁ、行くわよ!」
叔母さんに再び手を引かれ私たちは地下通路の中を走った。
何度も何度も曲がりくねった道を進み、ついに私たちは行き止まりに到達する。
「叔母さん……行き止まりだよ……!」
叔母さんが懐中電灯で周囲を見回すがどこにも出口はなかった。
「くそ……。逃げられないわ……」
叔母さんが私を背に庇いながら言った。
それから叔母さんはあの女と戦うつもりなのか腰の帯から刀を抜いて構えた。
あの冷気が近づいてくる。
一歩一歩、あの女の魔の手は着実に私たちへと忍び寄っていた。
「叔母さん……」
私は叔母さんの手を引っ張った。
そんな私の手を叔母さんは優しく握ってくれる。
「大丈夫。真理ちゃんは叔母さんが守るから」
次の瞬間あの女が私たちのいる場所へと足を踏み入れて来た。
それと同時に急に視界が眩くなる。
そして部屋を満たしていた冷気が突然消えた。
あまりの眩しさに私と叔母さんは目で手を覆った。
そして徐々に視界が慣れてきた時、私はここが一つの部屋であることに気付いた。
部屋の周囲に設けられたいくつもの棚には何本もの蝋燭が置かれている。
急に視界が眩しくなったのは蝋燭に火が灯されたせいだろう。
そして部屋の中央には漢字がびっしりとお経の様に書かれた溝が。
蝋燭の炎はあの女の顔も照らし出していた。
真っ暗だったせいで分からなかった美しい顔立ち。
その表情の奥には言い様のない悲しみと怒りが込められている。
「あなた……雨刈鐔鬼ね……」
叔母さんが恐る恐る声をかける。
叔母さんの問いかけに女はうなづいた。
やはりウゲツバキというのはこの女の名前だったのだ。
ツバキは今までとは違う、ハッキリとした声で叔母さんの問いに応える。
「そうだ、私は雨刈鐔鬼。貴様ら榊原家に殺された哀れな魂……」
「あなたに何があったの?」
時間稼ぎをするつもりなのか叔母さんが言った。
叔母さんの言葉に鐔鬼は自嘲気味に笑いながら答える。
「良いだろう。貴様らに話してやる。私と雪夫がいかにして佐久朗に殺されたのかをな」
そうしてツバキは語り始めた―。
作品名:榊原屋敷の怪 作家名:逢坂愛発