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榊原屋敷の怪

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次の瞬間私は背中に恐ろしく冷たい風を感じた。
私は恐る恐るそちらへ顔を向ける。
そして私は重大なことに気付いた。
まだ蔵の扉を開けたままじゃないか……!
あわてて腰を上げ、蔵の扉に向かう。
取っ手を掴んで勢いよく扉を閉めた。
その際わずかな隙間からあの女の人がゆっくりと立ち上がるのが見えた―。


蔵から出て二時間後。
私は自分の部屋で図書館から借りて来た本を読んでいた。
しかし一向に読書は進まない。
……あの蔵での光景が忘れられないせいだ。
あの光景を忘れるために読書を始めたはずなのに、その読書すら満足に出来ない。
仕方がないので私は本を閉じて、布団を敷き、その上にゴロリと横になった。
今は何をする気にもなれない。
だったらこのまま眠ってしまう方が良いだろう。
そう思った次の瞬間、敷地内に車が入ってくる音が聞こえた。
きっとおばあちゃんたちだ。
やっと独りじゃなくなるという安心感から私は布団から飛び起き、玄関に向かった。
私が玄関に着くのとほぼ同時に玄関の扉が開きおばあちゃんと叔母さんが家の中に入って来た。
買い物に行っていたのか二人とも手には買い物袋の様な物を持っている。
「おかえりっ!」
私は精いっぱいの笑顔を作って言った。
私の少々オーバーな挨拶に二人は一瞬きょとんとした表情を浮かべたがすぐに二人ともニコリと優しい笑顔を浮かべて私に応えてくれた。
「「ただいま。真理ちゃん」」


夕食を食べ終えた私は居間でテレビを見ていた。
面白そうなテレビ番組を探してチャンネルを回す。
最終的にテレビ画面にはお笑い芸人がたくさん出演するクイズ番組が映ることとなった。
「あら真理ちゃん。今日は居間でテレビ?珍しいわね」
そう言って風呂上がりなのかパジャマに着替えた叔母さんが私の前に座る。
叔母さんがそう言うのももっともだろう。
普段なら私は夕食が終わればすぐに自分の部屋に引っ込んでしまう。
こんなに長時間居間にいることはめったにないのである。
「うん。なんだか今日はテレビを見たい気分で……」
本当のことを言うと部屋で一人になるのが嫌なだけなんだけど……到底そんなことは言えなかった。
「真理ちゃん怖い話でも読んだ?」
唐突に叔母さんがそう言って来た。
突然のことに私はオロオロとうろたえてしまう。
「な、何で?」
「う〜ん。なんとなくそんな気がしたんだ」
そう言って叔母さんは「くすっ」と笑った。
「なんだか表情が何かを怖がってるようだったからさ。怪談でも読んだのかと思って」
叔母さんには分かるんだ、私が何かを怖がってること。
でも叔母さんは私が何を怖がってるのかまでは知らない……。
そう、叔母さんは私が叔母さんとの約束を破って蔵の中に入ったことを知らないんだ。
途端に後悔の念と罪悪感がこみ上げてきた。
私は信じてくれた叔母さんとの約束を破ってしまったんだ。
それに、あんな怖い思いするなら最初から蔵に近づいたりなんかしなきゃ良かった……。
負の感情がゆっくりと私を呑みこんで行く。
「ごめん。ちょっとトイレ」
そう言って私はよろよろと立ちあがった。
居間を出てトイレに向かう。
居間を出る際叔母さんが何か言ってくれたが、何と言っているのか聞き取れなかった。
トイレにたどり着いた私は扉を勢いよく引き開けた。
それと同時に吐き気がこみ上げてきたので、すぐさま私は便器に屈みこんだ―。


その日の夜、私はなかなか眠りにつけなかった。
きっと蔵での出来事が頭から離れないせいだ。
何度も何度も布団の上で寝返りを打ち、ようやくうとうとして来た頃私は夜の闇の中に響く物音で再び目を覚ました。
その物音は誰かの足音なのか不気味に床をギシギシと踏み鳴らして屋敷の中を移動している。
こんなよる遅くに一体誰だろう……?
不気味ではあったがその足音の正体が気になって仕方なかったので廊下に出てみることにした。
扉を開けて廊下に出るとひんやりとした冷気が私を包み込んだ。
この冷たさ……あの蔵の中と一緒だ。
じゃあもしかしてこの足音は!?
その時ギシギシと足音がこちらに近づいてくるのが分かった。
私の部屋の近くの曲がり角にもうすぐ差し掛かろうとしている。
その足音が近づいてくるにつれ、不気味なお経の様な呟きが私の耳に聞こえてきた。
蔵の中で聞いたあのこの世のものとは思えない声だ。
「……榊原……許さん……絶対に……とり殺してやる……」
私はあわてて扉を開き自分の部屋に飛び込んだ。
布団をかぶってその中で体を丸めて小さくなる。
その時足音の主が曲がり角を曲がったのが分かった。
足音はそのまままっすぐ私の部屋の方へ……。
お願い……来ないで……来ないで……。
足音が私の部屋の前で止まった。
あぁ、やめてその扉を開けないで!
私は必死で祈った。
お願い……神様助けて。
そんな私の祈りを神様が聞いてくださったのか足音は私の部屋の前で消えた。
その後しばらく待ってもあの足音は聞こえてこない。
あぁ良かった……。
私は恐る恐る布団から顔を出した。
すると目の前に凄まじい形相をした女の顔が。
明かりがないためハッキリとした表情は分からないが、憎しみに満ちた表情で私を見下ろしている―それだけは分かった。
誰か助けて!
そう悲鳴を上げようとしたが、私が叫ぶのよりも女が私の首を絞める方が早かった。
人間とは思えない凄まじい力でギリギリと私の首を絞める。
私は必死にその手を振りほどこうとしたが、所詮無駄な足掻きでしかなかった。
徐々に意識が薄れていく。
あぁ……私ここで死ぬんだ。
視界がぼやけて何も見えなくなった―。
作品名:榊原屋敷の怪 作家名:逢坂愛発