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榊原屋敷の怪

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第二章 復讐


私がこの屋敷に越して来てすでに二週間が経っていた。
楽しい時というのはあっという間に過ぎる物だとよく聞くけど案外嘘でもないらしい。
実際私は今日の朝叔母さんに「もう越して来てから二週間ね」と言われるまでまったくそれに気付かなかった。
あれから二週間経った今、私は近所に何人か友達も出来たしこの町のこともかなり詳しくなった。
当初は夏休み明けから通うこととなるこの町の学校で、友達が出来るかとても不安だったがこの調子なら大丈夫だろう。
「それにしても最近熱いなぁ……」
悪態をつきながら私は帽子を深くかぶり直す。
紫外線はお肌の天敵だ。
今、私は町の図書館から家に帰る帰路の途中だった。
家にいても何もすることがない(お手伝いはやる気しないもの……)ので暇つぶしに図書館に向かったのだ。
私の持つ手提げ袋の中には戦利品とも呼べる数冊の本が入れられている。
やはり夏休みともなると図書館を利用する学生が多くなるのだろう。
既に多くの本は借りられていて、私が読めそうな本はこの三冊くらいしか見つけられなかった。
少々少ない気もするが、まぁ借りられただけでも良しとするか。
ふと、気が付くと私の住む屋敷はすぐ目の前まで迫っていた。
これ以上炎天下の中にいるのは嫌なので私は屋敷に向かって駆け出した。
最も、この炎天下の中を走ることによって余計に熱くなるのではないかとも思ったが、そんな心配よりも今は一刻も早く家に帰ってお茶が飲みたかった。
勢いよく玄関を開けて屋敷の中に入る。
「ただいまー!」
私の言葉が広い空間に飲み込まれて消えて行く。
……返事はなかった。
みんな出かけてるのかな。
まぁ、今はそれよりもお茶お茶。
私は踵を返して台所へ向かって廊下を疾走した。
おばあちゃんがいたら「コラー!廊下を走るんじゃないっ!」って怒られそうだけど、今はいないから全然OK。
台所に到達すると私は冷蔵庫を開き中からお茶の入ったボトルを取り出した。
キャップを外してゴクゴクと喉に流し込む。
喉の渇きを潤し終わると冷蔵庫にボトルを戻して台所を後にした。
廊下に出ると孤独感からかおばあちゃん達がどこに行ったのか気になってくる。
もしかしたら屋敷のどこかにいるかもしれないので、探してみることにした。
風呂場やら和室やらを順番に見て回って行く。
だけど、どこにもおばあちゃん達の姿はなかった。
「ふぅ……一階にはいないか……」
私は気分転換に縁側に足を運び空気を胸一杯に吸い込んだ。
「ぅん?もしかすると裏庭にいるかもしれないな」
そんな考えがふと頭に浮かんだ。
可能性がある限り、やってみるのが私のポリシー。
……というわけで私は裏庭に足を踏み入れた。
そこでふと、私の視線はある一転に集中する。
あれは……絶対に入っちゃいけないって言われてた建物……蔵って言ったっけ……。
私の足取りは気付かないうちに蔵の方に向いていた。
まるで何かにおびき寄せられるかのように蔵に近づく。
蔵の前にたどり着いた時、私の中には得体の知れない好奇心が渦巻いていた。
一体この蔵の中には何があるのだろう……?
『絶対にここには近付いちゃいけない』そう叔母さん達に言わせる何かがこの中にある。
私はその正体がどうしても知りたかった。
蔵の入り口に手を伸ばし、取っ手を掴んで勢いよく扉を開く。
その際何かが破れる音がしたが、私は気にも留めなかった。
真っ暗な空間が目の前に広がる。
おそらく、これは蔵の中に窓がなく陽の光が入らないためだろう。
私はその闇の中にゆっくりと足を踏み入れた。
外からでは気付かなかったが蔵の中は外とは比べ物にならないほど温度が低く、私は思わず肩を両手で抱いた。
何も見えない闇の中を進んで行く。
闇の中には私の足音と息遣い、そして開け放たれた扉から流れてくる風の音だけが反響していた。
奥に行けば行くほど冷気は冷たさを増していく。
しかし私の足は止まらなかった。
いや、止められらなかったと言うのが正解だろうか。
私の足は勝手に前へ前へと進んで行く。
一体私はこの闇の中をどこまで進んで行くのだろうか……。
徐々に恐怖心が芽生えてきた。
ひょっとしたらこのまま地獄にでも連れて行かれちゃうのかな……。
そこである考えが私の頭の中に浮かんだ。
もしかしたらここは地獄の入口だったのかもしれない。
だから叔母さんは絶対に近付いちゃいけない、なんて言ったんだ。
あぁ……私はなんて馬鹿なんだろう。
その時私の足は不意に何かにぶつかり動きを止めた。
私は身をかがめて床に落ちている何かを拾い上げる。
手に触れる生地の感覚……これは日本人形?
次の瞬間急に部屋全体に明かりが灯った。
明かりに照らし出され手に持っている物の姿が明らかになる。
それは真っ白な顔の市松人形だった。
にこりと微笑を浮かべながら私をじっと見つめてくる。
私の体中を冷たい物が駆け抜けた。
思わず人形に床に落としてしまう。
人形は床にドサリと落ち、しかしそれでも上を向いてじっと私の方を見ていた。
蔵全体を覆う冷気がさらに冷たさを増した気がする。
私は蔵の全体を見回すべく床から視線を上げた。
周囲を見回して私は戦慄する。
だって……だって……蔵中に棚が設けられていてその上に何体もの日本人形が乗っているのだもの。
一体何体くらいいるのだろう……この蔵の広さからして200体……?いや、それ以上かも……。
それらの人形達が皆私に不気味な微笑を向けていた。
いや、私の勘違いかもしれけど……それでも不気味なことに変わりはない。
「ッ……」
私は蔵の奥の方に祭壇の様な物が設けられているのに気付いた。
足が自然とそちらに向かう。
近付くにつれて、祭壇に女の人の日本人形が奉られているのが分かった。
“助けて……!助けて……!”
「え……?」
突然女の人の声が蔵の中に響き渡る。
一体誰の声……?
蔵の中を見回してみても中には私しかいない。
“お願い……!誰か助けて……!
再び女の人の叫び声。
祭壇の人形がじっと私を見つめていた。
もしかして……この人形が?
その時突如蔵の中に物凄い叫び声が響き渡った。
さっきまでの女の人の声とは違う、この世のものとは思えない恐ろしい叫び声が。
私は反射的に耳を塞ぐ。
叫び声による振動で蔵の中がグラグラと揺れ始めた。
棚の上の人形たちがボロボロと床に落ちて行く。
早く……早くここから逃げなきゃ……。
移動するために顔を上げると祭壇の前に着物を着た女の人がうずくまっていた。
低い声で不気味に唸っている。
私は反射的に後ずさった。
女の人がゆっくりとうなだれていた頭を私の方に持ち上げ始める。
真黒な黒髪が顔にかかっていてハッキリとした表情は分からない。
徐々に黒髪が顔から離れどす黒い右目が姿を現した。
その目が私をじっと見つめている―。
これ以上ここにいちゃダメだ。
私は踵を返して駆け出した。
背後ではあの女の人がまだ不気味に唸り続けている。
途中何度か棚から落ちた人形に足を取られて転びそうになったがなんとか蔵の外に出ることが出来た。
「はぁ……はぁ……」
私は肩で息をしながらその場に座り込んだ。
一体あの人形はなんだったんだろう?それにあの女の人……。
作品名:榊原屋敷の怪 作家名:逢坂愛発