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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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こんばんは ⑤<アグリーフォン>

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 家に帰ると、シンジは戸棚の奥にしまってある、例の携帯電話を取り出した。
 まったく充電もしていないのに、電池はまだ切れていない様だ。
(もっとも充電器が無いので充電はしたくても出来ないのだが……)
 勿論あの事件は偶然に決まっている。
 しかし、百パーセント偶然とは思えないのも事実だったのだ。

 そしてファーストフード店からもらった案内を開くと、地区の責任者のオフィスの番号を押した……。

「もしもし、○○○のオフィスですか?」
 シンジは客からの電話を装って、店長の悪口を散々言った挙げ句、親切な店員も居たと、自分の宣伝までしたのだ。
 切った後、自分の事を言ったのはまずかったかと、後悔しても言ってしまったものは仕方の無い事だった。
 どうせクビになるのには変わりがない。

 指定された日に店に行くと、他の店員達が集まってきた。
「どこに行ってたんですか? 新店長!」
 またしてもキツネにつままれた様な顔がそこに在った。

 回りの環境は変わらないのに、シンジの店は急に売り上げを伸ばした。
 特に努力もしていないのに……。
 いつの間にか地区の最優秀店という事で本社から表彰を受け、シンジは正式な社員となり、地区のマネージャーにまでなった。
 そしてあの事件からもう一年が経とうとしていた……。

 しかしマネージャークラスともなればライバルは多い。
 棚ボタで今の地位を得たシンジにはもうどうして良いか分からなくなってしまった。
 そして、週に一度の経営会議で、何の策も出さないシンジは皆の前でつるし上げられてしまった。

 引っ越したばかりの高級賃貸マンションに帰ると、ガラスケースの中に収めてあるアノ携帯電話を取り出した。
 電池はまだ切れていない。
 当然だ、これは魔法の携帯電話なのだから。

 ブランド物のアドレス帳を取り出し、ゆっくりと社長の家のページを開いた。

 ダイヤルボタンを押す。

 トゥルル、トゥルル、トゥルル……。
「あ、もしもし、○○社長のお宅ですか、あの」

「ボツ」

 通話が切れてしまった。
 見ると、電話機の電池はまだ生きている様だ。

 もう一度掛けようとダイヤルボタンを押すと……。