こんばんは ⑤<アグリーフォン>
突然目の前にモクモクと煙が立ち上った!
そして中から見るからに悪魔の様な男が……。
「お客様、もう規定の通話が終了してしまいました」
「普通は三十分以内で三回まで使えるんでございますが、お客様の場合、初めにヒトを死なせてますでしょう?」
「だから電話からの注文も2回で終わりなんでございますよ」
「あの店長が自殺したのも含めて、四人も死んでますのでね? 有効期限も五年が一年に短縮なんでございますよ」
「さあ、契約に従って貴方様の魂を頂戴いたしますです」
悪魔は満面の笑みを浮かべた。
「お、おい、そんなムチャな話があるか!? オレはそんな事聞いてないぞ」
シンジが食って掛かる。
恐ろしい見た目とは対照的なソフトな語り口に安心したのか?
「何を仰しゃってるんでしょう? 電話機のメニューに使用上の注意というのが在ったはずでございます。
良く読んで頂ければ、今ワタクシが申し上げた事が細かく書いてございます」
悪魔はちょっとあごを突き出し、見下すような視線を向けた。
「その電話を使うという事は、そこに書いてある契約に同意したという事なんでございますよ。
一番始めにお使いになる時に、使用許諾に同意しますか? という、メッセージが出た筈で、貴方様はキャンセルなさらなかったのでは?」
気取ったポーズで、悪魔は両腕を小さく拡げて見せた。
「その電話は、わたくし供とのアグリーメントにアグリーされた方だけが使えるアイテムなのですよ。
そして貴方様はご注文どおりのシナを手にお入れになった……。 説明書きは良く読んでお使い戴かないと困りますな」
悪魔はソフトな語り口とは対照的に、凍るような冷たい笑みを浮かべたのだった。
「さて、お喋りはこのくらいにして、もう時間でございます。お約束どおりに……」
言い終わるかどうかというところで、シンジの魂は既に悪魔の手に握られ、クネクネと苦しそうにもがいていた。
再びモクモクと黒い煙が湧き出て、悪魔はシューと地面に吸い込まれた。
『毎度ありがとうございました。ホッホッホ……』
シンジの部屋の中で、どこからとも無くあの悪魔の声が、やけに機嫌良く響いた。
おわり
03.03.10
№024
作品名:こんばんは ⑤<アグリーフォン> 作家名:郷田三郎(G3)