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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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こんばんは ⑤<アグリーフォン>

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 トゥルル……、トゥルル……。

 二回のコールで相手が出ると、シンジは出来るだけドスの効いた声音を出してみた。

「お前の会社に爆弾を仕掛けた。あと三十分程で爆発する。結構大きな爆発だから、ビル全体の人間が早く避難した方が良いぞ」

 それだけ言うと慌てて電話を切った。
 爆破予告と避難勧告。なんともマヌケな電話だが、シンジの口はカラカラに乾き、心臓はドクンドクンという音が周りにも聞えるのではないかという程だった。

 爆破予告の電話を掛ければ、ビルの人間は取り敢えず避難するだろう。そのドサクサに紛れて入り込めば、遅刻とは気付かないかも知れない……。
 というのがシンジの狙いだった。

 その後、シンジは急いで会社へ向かった。
 果たして、会社のビル近くまでやって来ると……。
 辺りは大変な騒ぎになっていた。
 消防車が、救急車が、パトカーがけたたましいサイレンを鳴らして駆けつけて来た。

 そして、シンジの勤めるビルは……もうもうたる黒煙を上げ炎上していたのだった!

 キツネにつままれたような顔でその光景を見ていると、いきなり襟首を掴まれ、引っ張って行かれそうになった。
 振り返ると……警官だった!
 シンジはパニックになってその手を振り解こうとする。

 すると、今度は羽交い締めにされて……。
「君ぃ!ここは危険だからもっと離れなさいと、さっきから言ってるのが聞えないのか!?」
「他にもまだ爆弾が仕掛けられているかもしれないんだ!」

 警官の言葉にようやく我に返ったシンジ。
「あのぉ、私はあのビルに勤めているんですが、何が有ったのでしょうか? 今着いたので何がなんだか……」

「そういう訳でしたか。先程、このビルのある会社に爆弾テロの予告電話がありまして。予告どおりに大爆発が有ったのです。幸い電話が有ってから時間があったので、殆どのヒトは逃げたのですが……」

「まさか?!」
「はい、どうやら死亡者も何人か……」

 シンジは頭の中が真っ白になった。
 まさかこんな偶然が……。

 結局会社はそのまま倒産してしまった。
 またしてもシンジは職を失ったのだ。

 新聞・TV等でも連日事件の特集が組まれた。
 当然、警察の調査が入ったが手掛かり無し。
 電話を受けた会社は受注業務用に録音機能付き電話を使っており、機転の利いた社員がそのテープを持ち出していたのだが……
 声は残っていなかった……
 電話会社の通話記録にも電話番号さえ残っていない。

 そして事件は迷宮入りする事になった……

 シンジはしばらくオンボロアパートに隠れていた。
 偶然とは言えあの事件の事が頭から離れなかったのだ。

 あの携帯電話は?
 まだ捨てられずに持っていた。
 恐ろしく思い何度も捨てようとしたのだが、いざとなると捨てようとした事さえ忘れてしまうのだった。

 ところで、シンジの隠遁生活は長続きしなかった、まだ試用社員だったので失業保険がおりるわけでもなく、持っていた金も直ぐに使い果たしてしまった。

 今度はとりあえずファーストフードの店でアルバイトをする事にした。
 ゆっくり仕事を探す余裕が無かったのだ。

 しかし不器用なシンジは失敗ばかり起こし、すぐに店長に目をつけられた。
 例によって遅刻も多い。

『おいおい、いい加減にしてくれないかな。今度遅刻したら辞めてもらうよ』
 他の店員には割と人気の有る店長も、シンジには陰険そのものの男にしか見えない。

 ある日も……。
『また山本くんか? もう一人前になっても良いと思うけどね。マニュアルはちゃんと読んだだろ?』
『今回のはちゃんと給料から引くからね。それと、もう辞めてもらうからね。今までの分は清算しておくから来週取りに来てよ』
 クビになった。
 シンジは自分の悪いのは棚に上げて、店長を憎んだ。
 本当はこれまでも随分と庇って貰っていたのに……。