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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
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こんばんは ⑤<アグリーフォン>

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こんばんは ⑤

<アグリーフォン>

 こんばんは、深夜のTVショッピングです!
 今夜は貴方が待ち望んでいた……。
 見るとも無しにつけっ放しにされたTVの中で明るい司会者の声が子守唄の様に聞えてくる――。

 こうして、どうしようもなく眠くなるまでぼんやりとTVを見て過ごすのがこの男、山本シンジの常だった。

「どうです、お使いになられますか?」
 テレビからはみ出さんばかりの作り笑顔。
「そんなに良いならオレにもくれよ…… zzzzz」
 シンジは半分寝ぼけながら、TVとの寂しい会話をするのである。

 そして翌日、シンジは、今日もまた遅刻確定の時間まで寝過ごしてしまった。

『いい加減にしてくれよな。今度遅刻したら辞めてもらうからね』
 ニヤニヤしながらそう言った課長の顔が目に浮かんだ。

 シンジは食事はおろか、顔さえ洗わずにオンボロアパートから飛び出して行く。

 すると、ドアの前に落ちていたモノか、ドアの取っ手にぶら下がっていたのか、とにかくシンジの足に蹴飛ばされた何かがカラカラと音を立てて狭い通路を滑っていった。
 かなり慌てていながらも、気になったシンジはソレを拾い上げた……。

 それはまだ新しい“携帯電話機”だった。
 黒い艶のあるボディに金色の縁取りが美しく、床を滑った割にはキズ一つ付いていなかった。

 <Agree Phone D666i>聞いた事の無い機種だ……。

 シンジは急いでいたのもあって、それを上着のポケットに仕舞いこむと、駅への道をまっしぐらに駈けていった。

 いつもより二割増しくらいの速さで走った積もりだが、やはり遅刻は免れそうにない……。

 シンジにとって今の会社は何社目になるだろう。
 何をやっても長続きせず、次々と転職を繰り返す度にだんだんと収入が減って行った。

 たかが一時間足らずの電車通勤がやけに長く感じられる。
「ふうっ」っと深いため息のあと天を見上げた先の、週刊誌の中吊り広告に気になる文字を発見した。

「爆破テロの恐怖」

 シンジは中吊り広告を見ながら暫く考えた。
 そして、途中の駅で降りると、ヒトの流れとは逆の方、ホームの端=どん詰まりの方へ小走りで向かった。
 会社の始業時刻まであと二十分。
 その駅からはどんなに急いでも間に合うはずは無い!?

 焦る気持ちでポケットから拾った携帯を取り出す。
 又、財布の中から数枚の名刺を取り出し、一つを選んだ。

 焦る気持ちで名刺の電話番号を押す。
 どうやらこの携帯電話はガラクタではなく、ちゃんと使えるモノらしかった。
 最初にボタンを押した時、何かズラズラとメールの様なモノが表示されたが、もう一度ボタンを押すと、ごく普通の画面に戻った。

 シンジが電話を掛けた先は、シンジが勤める会社が在る雑居ビルの別の会社の番号だ。
 名刺はシンジが会社に入って間もなくの頃に、ひょんな事から手に入れたモノだった。