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最初で最後の恋(永遠の楽園、前編)

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首を切られて、三組の夫婦は成仏しましたが 一つの男の首は、切りおとされても、スサノオオに 喰いかかろうとしたんです。
スサノオオは怒って千仭の谷に封じ込めました。

ヤマタノオロチの妻は嘆きかなしみ、龍になり夫を探しまわりました。
雷が鳴り、嵐が吹き荒れ、世の中は真っ暗になったんです。

スサノオオは 哀れに思い、剣で、二人を一緒に串刺しにして成仏させました。

しかし、最後に、妻がスサノオオの手に噛み付こうとしたので、剣は二人を串刺しにしたまま、谷底に沈んだんです。

神の剣、生き物を成仏させ、永遠の楽園に導く剣で、谷底に沈んだ二人は、そこで幸せに暮らしました。
剣で結界を作ったので、神々さえも近寄れません。

 神に悲運をめいじられ 成仏できないものたちは 命がけで、愛し合った者たちだけ、その 永遠の楽園に行けるんです。」
 
私は彼の目を見て、ゆっくり、頷いた。
彼はそれを確かめると、話を続けた。


-----------------------(p.16)-----------------------

「僕は外に出る決心をして、叔父がやっている、印刷会社で使ってもらい、日本中の山を文献、インターネットで調べました。
そして分かったんです。その山が、みんなが暮らしている、永遠の楽園の山が。」

彼は、私の目をじっと見つめた。そして、私がうなづくのを確認して、呼吸を整え、言った。

「谷川岳です。間違いありません。」

-----------------------(p.17)-----------------------

「僕は、みんなに会いに行くために 渋谷のあの店にいったんです。
そして、そして、母のいう通りでした。
けいさんに逢えたんです。」

彼の身体は小刻みに揺れていた。私の肩口が、湿っている。
あの夜、私たちを照らしていた月はそのとき、ぼやけて見えた。
私はわかっていた。
彼の言うことが。
生まれる前から、この出逢いは決まっていたんだ。

 宮益坂の歩道橋をすぎて、大きな花屋の前の帽子屋のショーウインドーには すでに冬物の、帽子が並んでいる。
弘さんは少し、息切れをしていた。無理もない、十五年も世の中の空気を吸ったことがなかったのだ。

私と智子は 気を遣い、ゆっくり歩いたのだがそれでも、体力も精神もまだ、追いついていない。
 
あの日、私たちが出逢えて、彼が谷川岳に行くのを、のばしてくれて本当に良かった。

 谷川岳は、手ごわい山だ。特に急斜面に一本の鎖が頼りの一乃倉沢は、ベテランの登山者も沢山、事故にあっている。
今の弘さんでは、無理だ。
私と智子は数回 登頂したが、いつでも山の怖さを教えてくれた、名山だ。
二人で少しずつ二人三脚で、練習して、そして、ご家族に報告に行こうと決めていた。

 もう一人の親友、美咲のマンションは 静かな佇まいの住宅が並ぶ一角にある。
旦那さんは、キャリア官僚で、この立派なマンションも官舎だ。
インターフォンを押すと、美咲のはしゃいだ、でも少ししゃがれた声がした。

-----------------------(p.18)-----------------------

「うあ、うあ、けい、いらっしゃい。噂のうわさの、美形の彼氏も一緒なんだよね。
今、開ける。開ける。早く、早く。」

「あの、およびでないけど、私も一緒なんだけど、」

「智ちゃん、わかってるよ。早く、早く、早く来て。」

私たちはエレベーターにのり 5階についた。美咲は秋らしい柄のワンピースを着て入口の前に立って満面の笑顔で迎えてくれた。
 
私は笑顔が瞬間、消えた。痩せている、いや、やつれている。笑顔であればあるほど、それは際立ってわかる。あの病はまた、美咲を苦しめているのか。
智子も笑顔が消えていた。


-----------------------(p.19)-----------------------

 美咲らしい趣味の 控えめだがくつろげる北欧家具で統一されたリビングで、紅茶の味など分からない私でも、香りの良さが際立つダージリンを前に 美咲が言った。

「ホントだ、けい、彼、透き通ってるわ、あっ ごめんなさい。けいとは親友の戸村美咲と申します。」

彼は歩き疲れ、少し上気した顔で答えた。

「高倉 弘と申します。よろしくお願いします。」

「智子です。ともちゃんです。」

「聞いてないっつうの、それに智ちゃんのことは、ずっと前から、白亜紀くらいから知ってるよ。」

「もう、私を恐竜にして、ガオオ。」

みんなの笑顔がはじけた。

美咲の手料理が並んでいる。
ローストビーフに 彩りのいいサラダ おそらく ドレッシングもオリーブで作ったお手製だ。

美咲は 前から料理が上手で 嫁にもらいたいくらいだと ふざけて 智子と話していたくらいだ。

「この間、キャンドル教室にいって、ん十本、作ろうと思ったんだけど、消すとき、けいが 酸欠でなくなっちゃったら、彼氏に怒られると思って、おっきいの 三本にしときましあ。」

バニラエッセンスの香りとともに 生クリームとフルーツがたっぷり乗った手作り特製ケーキが運ばれてきた。
上には 綺麗な花柄のキャンドルが三本乗っている。

-----------------------(p.20)-----------------------

バラの香りがする シャンパンを 掲げ、美咲は言った。

「お二人の御婚約、そしてけいの ん十歳、ん十歳の誕生日を記念し..」

「ちょっとまって、その ん十歳を繰り返すのはやめてくれる。」

私は口をとがらせる。

みんなの笑い声が 頂点になったとき、美咲は言った。

「おめでとう かんぱ〜い。」

この 楽しい宴の間、私と智子はずっと気づいていた。
美咲が時折、胸を押さえているのを、
半年前の乳癌の手術は 成功したはずなのに。

-----------------------(p.21)-----------------------

その晩、散々、さわいだ私たちは、美咲のマンションに泊まった。

旦那さんは今日は帰らないので、是非、泊まって行って欲しいと美咲に言われていたのだ。

弘さんには居間のソファーで寝てもらい、私達は床に学生時代に クライマーの店主に頼んで特注で作ってもらった、三人用の寝袋に私を真ん中にして潜り込んだ。

すぐに 母親のカンガルーの袋に入った三匹の子供カンガルーのような、温かさが三人を包む。

私たちは 学生時代からずっとこの三人用寝袋で 山はもちろん、三人の誰かの家に泊まる時も潜り込んで 話をした。悩みごとや、未来のまだ見ぬ彼氏のこと、なんでも話した。

美咲が二年前に結婚して以来久々に 三人で一緒この寝袋に入る。

美咲は袋の中で、小さく震えながら言った。

「良かったね。けい。いい彼でほんとによかった。」

私は不安が抑えきれずに聞いた。

「ありがとう、美咲。あの、具合が悪そうだけど、この間のあれなの。」

「うん..転移してたみたいなんだ。明日からまた、入院なの。」