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最初で最後の恋(永遠の楽園、前編)

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-----------------------(p.49)-----------------------

アパートの天井を見ながら、東野さんは言った。

「けいさん、ごめんなさい。弘が、いなくなってからの、けいさん、見てられなかった。
 このままじゃ、けいさん、死んでしまうじゃないかと。
 だからといって、こうしては、いけないっていう事は、わかってるんです。
 智子にも、申し訳ない。
 でも、どうしようもない、僕は、僕は。」

ごくりと、息をのむ声が聞こえた。

私はその後の言葉を、東野さんの、口を押さえて、さえぎる。

もう、そんなことは、どうでもよかった。
私はゆっくり、服を身に着けた。
行為の後なのに、冷え切った体が、心まで冷やす。

弘さんと同じ目の輝きの、東野さんに抱かれたら、なにか、変わるのか。
変わらなかった、結局、なにも、答えはでなかった。

私は、東野さんの 目をしっかり見て、言った。

「今夜のことは、忘れましょう。
 一生、忘れましょう。
 寂しくて、おかしくなった私が、まちがってたんです。
 ごめんなさい。
 だから、今夜のことは、忘れてください。」

東野さんはなにか、言いかけたが、うなずき、うなだれながら、服を身につけた。

そして、ごめんなさい、という、小さな声と、ドアの閉まる音がして、私は一人になった。

後悔と自責の波が繰り返し、私をおそう。

智子、ごめんなさい。と、ふとんの中で、何回も言いながら、泣いた。
一晩中、泣いた。
-----------------------(p.50)-----------------------

それからの、私は、智子と顔をあわせるたび、自責の念が襲い、耐えられなくなった。
今まで姉妹より、仲の良かった二人は、私の罪によって、隙間が、開いてしまった。
それは、今までの仲が、肉親以上の信頼だっただけに、、塞がることのない、隙間だ.

智子も、私の気のせいか、私と距離をおいているように、感じる。
私たちは もう あのころには 戻れないのか。

東野さんと、智子の結婚式が あと、一ヶ月とせまった、五月だというのに肌寒い日だった。
心の整理がつかず、処分出来ずに、衣装ケースに そのままにしてあった、弘さんの服のポケットから、消しゴムが出てきた。

少しふくらんでいる..

紙のケースを、ずらして、消しゴムを出した。
真ん中が四角く、くり貫いてあり、SDカードが、二枚、そこに収まっている。

..弘さんは、何か、私に隠していた。

パソコンにカードを挿す。

2000.4.7

初めての作品

作者 高倉 弘

題名 永遠の楽園 

口の中がからからになる。
夢中で読み進める。

東野さんの、A賞受賞作、『永遠の楽園』そのままだった。

 『永遠の楽園』を書いたのは、六年前の、弘さん..







-----------------------(p.51)-----------------------

もう一枚のカードを、震えながら開ける。

2001.5.11

第三作(永遠の楽園 最終章)

題名 まだ見ぬ君へ(永遠の楽園)

作者 高倉 弘

 まだ見ぬ、君へ
この思いを 小説にして送ります。
君はきっと 驚いているでしょう。
この、小説を読んでいる、
透明な君の前に 僕はいない。

君はきっと、たじろいでいるでしょう。
なぜって思っているでしょう。
ごめんなさい。
この小説がすべての答えです。
真実はあの楽園にある。

 まだ見ぬ、君へ
シクラメンの淡い白より
清く、透明な君よ
暗い闇におびえる、君よ
あの谷にいきなさい。

序章の詩..

..弘さん。

白くなった頭の中で、夢と現実が静かに、混ざり始めた。

私は『まだ見ぬ君へ』を 読み始める。

読み終わり、うなずいていた。

幾すじもの、涙が頬をつたいながら、何度もうなずいていた。

なぜ、気付かなかったのだろう。

『永遠の楽園』三部作は、弘さんでなければ、到底、書くことは不可能だ。

神戸の震災で、家族と一緒にがれきの下になり、だんだん、一人になり、生き残った、弘さん
外の世界を遮断して、ひたすら、過去と未来を創造した、弘さん。
現実を拒否し続けた、弘さん。

伝説と予知夢、過去と未来が交差して、一本の組みひもを、編み上げるような、小説、『永遠の楽園』。
弘さんの経験、そして透明な弘さんの、感覚なくして、誰が書けるというのか。

-----------------------(p.52)-----------------------

パソコンの画面から、目をはなし、弘さんの遺影を見た。

永遠の楽園、そして二作目、『最初で最後の恋(永遠の楽園)』と、立て続けに、読者を魅了した、東野さん。

半年前に発表した、小説、『夢の途中』は読者の、虚をついて、永遠の楽園三部作の最終作では、なかった。

だけど、『夢の途中』の内容はひどく、同じ人間が書いたのか、と批評家に酷評された。

同じ、人間が書いたんじゃなかった..

そして、読者は、三部作の最終作を待っている。

『まだ見ぬ君へ(永遠の楽園)』を待っている。

誰より、発表したいのは、東野さんだ。

いろいろの理由をつけて、発表を遅らせ、読者をやきもきさせているが、理由はここにある。

東野さんはもう、失敗できないはずだ。
この秘密をかかえたままで..

私の首をしめていた、いばらの紐が、ゆっくり、ほつれはじめ、ある疑惑にたどり着く。

弘さんは 本当に自殺したのか..

カードはここにある。


-----------------------(p.53)-----------------------

智子はいつの間にか、女の気配を身につけていた。

私が自分の事で、いっぱいだった間に、智子は愛の世界にひたっていたのだろう。
しぐさやたたずまいは、もう人妻の雰囲気を漂わしている。

街路樹の葉の裏がひるがえり、新緑の到来を喜んでいる昼休み、智子と、カフェテラスでランチを取っていた。
トマトとレタスがいっぱい入った、クラブサンドを食べ終わり、五月の陽光がはねかえる、ラージのグラスを、前にきりだした。

「智子、いよいよ、一ヶ月、切っちゃたね。
楽しみだよ。結婚式。うんと盛り上げちゃうからね、覚悟しといてね。」

智子は、少しむせながら、顔の前で手をふり、言う。

「怖いなあ、けいが気合こめて、もりあげちゃったら、とんでもないことになっちゃいそうだよ。
お手柔らかにたのむよ。」

「大丈夫だよ、二、三人、救急車で運ばれるくらいにしとくよ、大事な親友の結婚式だもん。」

「やめて、やべてぐれえ。」

道を歩く人達が私達を見るのもかまわず、口をあけて笑った。

「そう、それと、それと、結婚式までには、東野さんの、永遠の楽園最終章、読めるのかなあ、楽しみにしてるんだよ。
全国の東野ファンもきっと やきもきしてるよ。
どうなの、ねえ、ねえ、ひょっとして企業秘密なの、でも知りたいよう、教えて、教えて。」

智子の笑顔が一瞬、消えた。
私は見逃さなかった。