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殺生――『今昔物語』より

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 娘七歳の春。
 このごろは、兄たちと家で骨牌や絵描きや双六をして遊んでいた凛でしたが、あるとき、ふいっと姿が見えなくなりました。何処へ行ったのやらまるでわからず、最初に気付いた母親が、「凛の姿をみなかったかい?」と息子たちに訊ねたものの、皆、揃って、「見ていない」と告げるのでした。
 どこかへ隠れて遊んでいるのだろうと、最初は軽く考えていたのですが、夕刻になり、さらに時間が経って、闇があたりを押し包むころになっても、娘が一向に姿を見せないので、不審に思って、兄たちは家の周りを探し回ることにしました。なにしろ、このころは治安がよくなったといっても、昔のこと。人さらいや傷害といった事件が、街の中にはたくさんあったのでございます。そういった事件に巻き込まれてしまったとの心配もありますが、普段、家より外へはめったに出ぬ凛のこと、慣れぬ外の世界に見とれて、帰る道を失念してしまったかも知れぬと母や兄たちが思ったのも無理からぬことでございました。
「おーい、凛」
「凛、どこだー」
 兄たちははじめ、徒歩で歩ける距離を探していましたが、近所や道行く人に、小さな女の子を見なかったかと訊ねても、一向に消息が知れません。
「そんな娘は見ていない」近くの草鞋屋の小母さんが告げます。「あんたのところの娘はみめが好いから一目見ればそうとわかる。それだけ目立つ娘なのに見つからないというのはいったいどうしたことなのかね」
「すみません、ありがとうございました」と長男は礼を言うと、気落ちしながら、他を当たります。
 結局、その夜は娘を見つけることができませんでした。
「いったい、どこへ行ってしまったのか」将軍はそう仰ると、消沈したようになって、狩りから帰ったままの衣装で、自分の床に就かれたのでございます。
 家族皆が、凛の心配をしておりました。

作品名:殺生――『今昔物語』より 作家名:蒼幻