殺生――『今昔物語』より
六
あくる年の初秋、将軍の妻阿玲は、玉のようなお子をお産みになりました。
将軍は、それはとても言葉ではいい尽せないほどのお喜びようでございます。初めての娘ということで、浮かれてしまうのも無理はありません。
おまけにその赤子は、まるで身裡から光を発するかのように、とても魅力的な顔立ちをしていたので、王将軍も、この娘は、長じればきっと美人になると踏んだものでもあったでしょうか。
この娘は凛と名づけられました。
娘三歳のころ。
将軍とその妻は、凛をたいそう慈しんでおりまして、毎日新しい着物を買ってきてはお着せになり、また、さまざまな玩具を買い与えられては、娘の喜ぶ姿をご覧になり、心をなごませられるのでございました。
「凛はきっと江南一の美人になるだろうよ」
将軍は冗談とも本気とも取れるようないい方で、そのように告げられます。
「本当に、いったい、どうして、こんな子が私たちのあいだに生れたのでしょう」阿玲もそういっては娘の愛嬌ある姿に頬を緩めます。
あるとき、家族全員で、将軍の故郷である代州に帰郷されたことがございました。
そのときの様子といったら、なかなか常にはないものがありました。この凛のみめうるわしさときたら、親戚中の評判になるほどで、ほとんどひっきりなしに、将軍の実家を訪うものがあり、夫婦はまったく休むひまなく、彼らの相手をせねばならぬほどでございました。
娘は親戚や近所の者のもってきた着物をきて、玩具で遊び、見る者の心を楽しませます。外で遊ぶことの少ない娘は、色白で、まるでか弱い小動物のようにも見えますが、顔立ちがしっかりしているので、芯の強い、しっかりとした子であるとの評判を得ておりました。
まるで画家の描いた絵画から脱けでてきたように美しく整った顔。三歳でこれなのだから、きっと行く末はとんでもない美人になるに違いないと、周りの者は疑いませんでした。
作品名:殺生――『今昔物語』より 作家名:蒼幻