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暁女神<エオス>の目覚め 離星の章

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「ジョティ、行きたい場所はありましたか?」
「ヴェントゥーラ、どこ」
「ヴェントゥーラ?ヴェントゥーラなら、あなたが通ってきたはずの場所、ヴァンサン領地のはずですよ」
エティエンヌはヴァンサン領の最南部、ローカーハに近い凸部を指差す。
「ここですね、貿易と商売で有名な、風の街ヴェントゥーラ」
「ヴェントゥーラ、頼る人、教わった。でも通る、過ぎた。残念」
「成程。言葉も覚えましたし、もう一度行ってみるのもいいかもしれませんね」
「世話、ありがとう」
「お礼は早いですよ」
そしてもう一つ。ジャドがどこから来たのか。エティエンヌはその目的を口にすることはなかった。けれども、ジャドは気付いてしまう。エティエンヌの気遣うようなその目で。
エティエンヌは優しすぎるのだ。
「俺はどこから来たんだろ。わからないな」
ジャドは自らそれを口にすることで、気にしていない、ということをアピールした。
メリエール領、プレーヴォ領、ヴァンサン領、マタン、ローカーハ、イブン・シャムシー…。
実際、何を聞いてもジャドがピンとくる地名はなかった。
「でも、忘れてしまったということは、忘れたかったんだろう。俺はこの暮らし、満足してるし、みんなだって俺のこと受け入れ始めてくれてる。俺はずっとここで暮らしたいんだ」
「ジャド…」
哀れむような、感動するような、そんな目で見つめられて、ジャドはなんとも複雑な気分でエティエンヌから目を逸らした。
エティエンヌは度々そんな目をする。哀れまれるのは嫌いだが、エティエンヌは悪気があってそんな目をしているわけではないし、むしろジャドへの好意を高めた徴であることを知っているから、何も言えないのだ。
「ありがとう、ジャド」
「礼を言われるようなことなんて何もしてないぞ」
「いる、俺、ここに、まだ」
何故かジョティがむっとしたような表情でジャドの横に立ち、エティエンヌに向かってそう言った。
ジャドは、ジョティにもまた余る好意をもらっていると感じていた。ジョティがエオス王国の言葉を喋れるようになったと言ってもまだ細かい部分は伝わらないし、冗談などを話せるのはジャドだけだった。そんなジャドとジョティは一番に仲良くなった。
ジョティはエティエンヌ以上に優しく、繊細だった。困った人がいれば放っておかない。夜は酒場に行って村人の悩み事の聞き役になっているようだった。もっとも、アドバイスできるほどにはエオス語を覚えてはいなかったが。
そんなジョティもまたジャドのお気に入りで、ジョティも最も気兼ねなく会話のできるジャドを気に入るのは当然のことだった。
ジョティがいまだにグリ村に留まっているのは、ジャドの側を離れたくないからという理由もあったろう。
エティエンヌは苦笑して、広げた地図を畳む。
「大歓迎ですよ。楽しい村人が増えて、私も嬉しいです」