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暁女神<エオス>の目覚め 離星の章

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エティエンヌが、村人が、男さえも驚いてジャドを振り返る。
ジャド自身も驚いていた。
何故記憶を丸ごと失っている自分が、複数の言語を操れるのだろうか。
それは記憶を取り戻す術を知らない以上わかり得ないことだったが、疑問に思わずにいられないことだった。
『お前は…見たところローカーハの民ではないようだが…言葉がわかるのか?』
男と対峙するエティエンヌの手前まで来た時、ようやく男が口を開いた。
『…わかるみたいだ』
ジャドは苦笑してそう答える。
『俺は……ジャド。俺もこの村へ来たばかりのよそ者だ』
『俺はジョティと言う』
男…ジョティが、恐らく彼ら独自の挨拶の仕方だろう、左手を胸に当てて空を仰ぐような仕種をした。
『この国の言葉は挨拶くらいしか知らないのだ。余計な喧嘩を買って困っていた。助かった』
彼があくまでも笑顔でそう言うものだから、今まで彼を敬遠していた村人たちも、思わずといった様子で和やかな雰囲気になる。
「ジャド。言葉がわかるのですか?」
そこで横から声をかけられて、ようやくエティエンヌの存在を思い出す。
「あ、うん、わかるみたい」
ジョティに言ったことと同じことを伝える。
それ以外には何も言えないからだ。
「彼は何と?」
「ちょっと待って」
ジャドはジョティに向き直る。
『こっちは俺がお世話になってる神父のエティエンヌだ。怪我がないか、どこから来てどこへ行くのか聞いている』
男はあの笑顔で答えた。
『怪我はない。怪我は負いたくないが周りの者も傷つけたくない、だが殴りかかってくるので、仕方がないから伏せて耐えていた。俺はローカーハから来た。目的地はない。ただ旅をしている』
「ローカーハ?」
男の言葉の単語だけを聞き付けて、エティエンヌが首を傾げる。
「そう、ローカーハ。怪我はないそうだ。ローカーハから来たジョティというらしい。目的地はなく旅をしているだけって言ってる」
「そうですか。ようこそ、グリ村へ。時間が許すのであれば、しばらく私の教会で休んでいってください」
エティエンヌは笑って手を差し出す。その純粋な好意は、言葉がわからずとも伝わるのだろう、ジョティは頷いて、エティエンヌの手を握り返した。
そしてその日から、ジャド、エティエンヌ、ジョティはしばらく同じ時間を共有することとなる。