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暁女神<エオス>の目覚め 離星の章

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エティエンヌがふと呟いた言葉は、意味を持ってはいたけれど、その単語の意味も知ってはいたけれど、あまりに唐突すぎたために、彼は何を言っているのだろうかと、呆ける。
謎の単語を発した本人は、彼の癖らしい、口角を少し上げた穏やかな微笑のまま、こちらをじっと見つめる仕草をする。
「君は希望を持っていたと言ったね。記憶をなくそうと、それは同じこと。私は君に、これからも希望を持って生きて欲しい」
「ジャド<翡翠>…?」
翡翠。南の孤島でのみ採取される、珍しい石。とても高価だが、人々はみなその宝石を愛し、憧れを抱いていた。その石を手にすることができれば、輝かしい未来をも手に入れることができると。
それ故にその石はまた、『希望』という意味を持った。
金髪の美貌を持つ若い神父は、ますます身を乗り出してこちらの目を覗き込む。
「綺麗な緑。私は翡翠という宝石をこの目で見たことがないけれど、きっと君の瞳のような艶やかさなんだろうね」
手放しに自分の容姿について褒められたので、照れを隠せずに自分の目に手を伸ばす。
この瞼の下に、どんな瞳があるのかは、自分で確かめることは一生叶わないだろう。しかし、きっとエティエンヌの言葉に嘘はなかった。
「ほんとうの名前を思い出すまでは、ジャド、と呼ばせてもらおうかな」
まだ恥ずかしかったし、そんな宝石の名前をもらっても…と困惑と違和感でいっぱいだったが、それでも便宜上そうするしかないのだから…頭をこくりと下げる。
その瞬間急に自分の足が地についたようで、目覚めてから初めて、今この状況を落ち着いて考え始めることができた。
過去を思い出そうとすると、やはりまた狂いたくなるほどわけのわからない衝動に駆られたが、それでも未来は違う。今も違う。
耳元で、またあの声が囁いた。
―――生きて、生きて。
だったら、少しでも『生きる』ことについて深く考えることができるのではないか。安寧の日々を『生きる』ことができるのではないか。
…『ジャド』の願いはただ一つ。
日々を安らかに暮らすこと。そして生きること。
その日、記憶を失った少年は、新しく生まれ変わった人生の一歩を、ようやく歩みだした。