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暁女神<エオス>の目覚め 離星の章

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ジャドとジョティが、エティエンヌを教会内に残したまま、教会の外へと出た。
騒ぎは、教会のすぐ前で起こっていた。
昼間見たような、武装した複数人の兵士たちを従えた隊長らしき人と、村人たちが、何やら言い争っている。
後から、マリエッタを筆頭に、教会で預かっている子どもたちがわらわらと教会の外に出て様子を見に来た。
皆で騒ぎに近付いて見ると、隊長が何やら紙切れのようなものを掲げていた。
「元・大天主教会司祭エティエンヌは、神の教えに背き異教を支持し、村人をも無理に異教に染めようと間違った教えを触れて回った!その罪は決して小さくない!六貴族が一人、フェルディナンド・ド・プレーヴォ公爵様より直々の逮捕状・死刑宣告が出ている!」
「逮捕状!?死刑だって!?」
「異教!?どういうことだ!?」
村人たちは口々に、それは間違いだ、と主張した。
「きっと誰かと間違えているんだ!」
「そうだそうだ!エティエンヌ様が異教だって?嘘だ!」
「うるさいうるさーい!黙れ農民ども!逮捕状が偽りなどと戯言を!フェルディナンド様のご判断が間違っているなどと口にした輩は今すぐ前に出ろ!お前たちも反逆罪で斬って捨ててやるぞ!」
隊長のその一言に、一斉にみなが静まる。
「嘘だ!」
その静まりかえった場所に一歩踏みだしたのは、ジャドだ。
「エティエンヌは正しく清い司祭だ!何も間違いなど犯していない!」
ジャドの言葉に村人は再び活気を取り戻して、そうだそうだと大声を上げる。
「ええいしゃらくさい愚民どもよ!みな反逆罪で捕えてやるわ!小隊!」
「ちょっと待ってくださいましお役人様!」
隊長が兵士たちに剣を抜かせようとした時だ。横から、役職上の村長が進み出て、隊長を制した。
「お役人様、わかりました。エティエンヌを差し出します。差し出しますから、しばしお時間をいただけませぬか。エティエンヌは頑固で狡賢い男。よく言って聞かせてからここへ連れてきますが、少々の時間で説得できるとは思いませぬ。そのための時間をください」
「村長!?」
ジャド、ジョティを始め、村人たちは村長を囲んで何故だと問い詰める。しかし村長は疲れたような顔で笑うだけだ。
「わかった。我々もなるべくなら血を見たくないのでな。仕方ない。30分だけ待とう。それ以上は待たん。それを過ぎれば、または神父を逃がそうなどとしたならば、村人全員反逆罪だぞ」
「わかっております」
村長は隊長にぺこりと会釈して、教会へ入っていこうとする。村人たちは引き続き村長に文句を言いながらも、仕方なしにそれに続いた。
教会の礼拝堂で、今しがた外に出ようとしていたらしいエティエンヌが、怯えた子どものような目で、入ってきた村人たちを見上げた。
「…エティエンヌ。悪いが、私たちの村にお前さんはもう必要ない」
「……え?」
村長のその言葉に、エティエンヌが凍りつく。
ジャドは、エティエンヌのそんな表情今まで一度たりとも見たこともなかった。
「それは…どういうことです…村長…?」
「どうもこうもない。言葉通りだ。お前は今しがた異教を支持しているということがわかった。早急に私たちの村から出て行ってもらおう」
「そん…な…」
美しい、金色の睫毛に縁取られたエティエンヌの目が驚愕に開かれる。
「村長、何を言っ…」
ジャドが反論しようとした時だ。
村人の一人が、そうだ!と叫んだのは。
それを皮切りに、村人たちがこぞってそうだ、そうだと声を上げ始めた。
「そうだ!出ていけ!」
「お前なんか必要ない!」
「邪教の悪魔め!」
「出ていけ!」
ジャドには、村人たちが一瞬にして敵になってしまったような気がして、目の前が真っ暗になる。
(…!…う!…!)
またあの耳鳴りのような声。いつもの優しい声ではない。それは怒号。
過去の…昔の…あの日にもジャドは…。眩暈と、頭痛。
――これ以上は駄目だ。湧き上がる過去の感情を、ジャドはぎゅっと目を瞑ることで必死に頭の隅に追い立てた。
ジャドですら、村人たちの変貌にこれだけのショックを覚えているのだ。村人たちに直接感情をぶつけられているエティエンヌはどうだろう。今まで手を繋いで歩いていた同胞の手で、奈落の底へ落とされたも同然に違いない。
「ジャド様!」
呆然と立ち竦むジャドの手を引いたのは、いつの間にか横にいたマリエッタだった。
その幼い瞳には、涙が一杯に溜まっている。
「神父様を、お願い。頼めるのは、貴方とジョティ様しかいないの。わかった?」
「…え?どういうこと…?」
「馬鹿!わからないの?!皆は、捕まってもいいから、エティエンヌ様を逃がしたい、そう思っているのよ!」
マリエッタは、いつもの彼女らしくなく、乱暴な口調でそう言い放った。ジャドは放心したまま、自分の背丈の半分程度の大きさのマリエッタを見下ろす。
「元々この村の住民でないあなたたちは逃がしたい、村長はそう言ったの。お願いジャド様、エティエンヌ様をどこか遠いところ、プレーヴォ領から遠くへ連れ出して」
その一言に、ジャドは村人たちの真意に心打たれると共に、ひどく絶望した。
”元々この村の住民でない”。いくら受け入れられているように思えても、やはり、それは仮初のものに過ぎなかった。もちろん、それはジャドやジョティを完全な余所者だから遠ざけたい、という理由ではないだろう。むしろ、二人を大切に思うからこその気遣いであったろう。それでも、グリ村を生涯の住処にと考えていたジャドには、手酷い裏切りに思えた。
「早く、ジャド様!このままではみんなの、大好きなエティエンヌ様を詰る苦しみが意味をなさないの!お願い、お願いだからあ…っ!」
ついにマリエッタは、ジャドの腰に頭を押し付けて、わんわんと泣き出してしまった。
ふと視線を感じて顔を上げると、人混みを掻き分けてこちらへやってくるジョティと目が合う。
困惑した様子のジョティは、視線をマリエッタへと下ろした。
「…っ、わかった、マリエッタ、顔を上げて。必ずエティエンヌを助ける。生かして見せる。だから無理はしないで。みんな、生きて。それがエティエンヌの願いだろうから」
ジャドが膝をついてマリエッタの頭を撫でると、しゃっくりをあげ続けるマリエッタが、顔を上げる。
「ジャド様、ありがとう、ありがとう…っ」
マリエッタは泣きじゃくりながらも、その可憐な唇で、ジャドの両頬に口付けた。
「裏の芋畑に…あるっ、一番大きな樹木の脇…っ。そこから、教会の表の人たちにはっ、わからないように村を…、ぬ、抜け出せる道に…通じることができますっ」
「わかった」
『どうしたことだ、ジャド』
ジョティが見かねて問うてくる。
『ジョティ。三人で逃げよう。エティエンヌの命が危ない』
説明する暇はなかった。とにかく、一刻も早く、この村を離れればならないということを伝えたくて、真っすぐにジョティを見つめた。
ジョティは、すぐに頷いてくれた。
三人は、エティエンヌの側へ駆け寄った。
「エティエンヌ、逃げるんだ。早く、この村から、逃げるんだ」
「で、できない。私には…そんなこと…」