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暁女神<エオス>の目覚め 離星の章

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ジャドだって辛かった。村人を見捨てるか、エティエンヌを見捨てるか。本来なら、どちらだって選べない。それでも、村人たちの覚悟と勇気を台無しにすることは、村人を見捨てる以上にひどいことなのだと、理解しているつもりだった。
「ぐだぐだ言うな!ジョティ!」
『承知した』
ジャドが目配せしただけで、ジョティはジャドの言いたかったことを察してくれた。彼はその太い腕で、エティエンヌをまるで俵のように担ぎ上げた。
エティエンヌは、きっと自分では頑としてその場を動かなかっただろう。
「何をするんですっ、降ろして下さいっ、マリエッタ、マリエッタも行くでしょう!?マリエッタ!」
ジョティが走るまま裏口へと向かうエティエンヌは、ぐらぐらと揺らされながらもマリエッタに懸命に腕を伸ばす。
だが、マリエッタはそこから動こうとしなかった。
まだ幼い少女は、泣きながらも微笑んでいた。
「パパ、ありがとう。大好きよ…!」
その言葉に、エティエンヌが呆然と伸ばした腕を強張らせる。ジョティが裏口へ通じる扉を潜りきったところだった。
後へ続くジャドは最後まで、このままマリエッタだけでも抱き抱えて連れて行ってしまおうか悩んでいたが、マリエッタのその顔を見て覚悟を決める。
マリエッタの決意を汚してはならない。
だから、一言、残すだけにした。
「マリエッタ!必ず、どこかで、生きて、会おう!」
マリエッタは、神への愛を述べる時と同じく真剣な顔で、頷いた。



途中の家で馬を拝借して、三人はグリ村を遠く離れた。
その一件から、あの高貴な人物であったエティエンヌは、魂が抜けたように塞ぎこむようになってしまった。
三人は、とにもかくにも駆けた。グリ村から離れるために。プレーヴォ領から離れるために。それがマリエッタの…グリ村の人々の願いだったから。
皮肉にも、その報せを聞いたのは、プレーヴォ領を抜けてすぐ、ヴァンサン領サーラ村に入った時のことだった。
――グリ村が焼き討ちに遭ったと。
エティエンヌは、生の証を失った。

暁女神<エオス>の目覚め 離星の章 ≪了≫ → 巡風の章へ