表と裏の狭間には 七話―想い―
「そうなの。普段お姉様にしていることくらいしかしてないの。」
耀のゆりに対するスキンシップを回想してみる。
ここには記録してないが、日常のスキンシップはこんな感じだ。
まあ、抱きついて押し倒して胸やらなにやら触りまくってるわな。
相手が強気のゆりだからその程度で済んでるんだろうが…………。
押しに弱く、押しの弱い雫がこの攻撃を受けたら…………。
もっとされてるんだろうな………。
最近雫の持ってる本に百合傾向のものが混じり始めてるのは、それが原因か……。
…………………………………………………………………………。
「輝、パソコン貸してくれる?」
「いいけど、何に使うんすか?」
「仕事人にコンタクトして仕事を依頼する。」
「待て待て待て待て待て!!」
慌ててゆりが制止に入る。うるさいな……。
「どこにコンタクト取ろうって言うのよ!」
「世界共営強襲暗殺師団。」
「世界最強の暗殺部隊じゃない!関東の部隊全員投入しても防衛出来ないじゃない!!」
「雫を汚すような奴は死ね!!さあ死ね!!」
「直接首を絞めにかかるんじゃないわよ!!っていうかそのダガーナイフどこから取り出したのよ!?」
「フフフ………………ハハハハハハ………ハハハハハ!!ハハハハハハハハハハハ!!」
「紫苑君が壊れたぁああああああ!?」
そんな騒ぎのあった夜。
本当に、事は起きた。
そもそもおかしいとは思った。
こいつらが、この日に限っては俺と同タイミングでベッドに入ったのだ。
いつもに比べて静かな夜。
(雫………今頃どうしてるかな…………。)
そんな事を考えながら、眠ろうとしていた。
そんな折。
「紫苑君………起きてる?」
ゆりの声だ。
一応そこまで過激な事はしていないという証言がとれたので、まだ存命中だ。
「何だ?」
正直割と眠いんだが………。
「ちょっと話しましょ。」
「ここでか?」
「ええ。」
「他の連中がいるぞ?」
「いいわよ。どうせ寝てるんだろうし。紫苑君が嫌なら移動するわよ。」
「いや、いいよ。じゃあちゃっちゃと話してくれ。」
眠いし。
「話ってのはね。雫ちゃんのことなのよ。」
眠気が、吹き飛んだ。
「雫のこと?あいつがどうかしたってのか?」
「……紫苑君、あなた、シスコンでしょ。」
いきなりどうした。狂ったか。
「違うよ。何度も言ってるけど、俺はシスコンじゃない。」
「そうかしら?あたしが聞きたいと思ってるのはね。あなたが、雫ちゃんのことをどう思ってるかなのよ。」
そんなことか。
「そんなの決まってるだろ。大好きだよ。家族としてな。」
「そういう適当なことじゃなくて、もっときちんとしたことよ。話す気、ある?」
「その前に一つ。お前、どうしていきなりこんなことを聞いて来るんだ?」
「気になったからよ。あなた、家族は雫ちゃんだけじゃない?」
「調べたのか?」
「それもあるけど。雫ちゃんから聞いたのよ。」
「雫から?」
なんて聞いたんだ?
「あなたと雫ちゃんが二人っきりの家族ってこと、昔からずっとあなたが雫ちゃんに寄り添っていたこと。そして――」
「そして?」
「――雫ちゃんが、あなたを、大好きなこと。」
あいつ、ゆりたちにそんなことまで話していたのか。
信頼されてんのな、こいつら。
どうやったんだ?人見知りの激しい雫から、こんな短期間で信頼を勝ち取るなんて。
「少し、考えていいか?」
「いいわよ。明日の夜、答えを聞かせて頂戴。話さなくても、いいから。」
そう言ったきり、ゆりは黙ってしまった。
話す義理は、ないといえばない。
でも。
雫が、そうも信頼して話したというのなら。
話す価値は、あるのかもしれない。
翌日の夜。
あたしたちは、紫苑君がどう決断するのか、それを待っていた。
明日は移動日のため、今日が事実上の最終日。
その夜。
つまり、最終日の夜。
なんか激しく間違った使い方のような気がする。
まあ、気にすることもないか。
そもそもこのためにセッティングしたのだから。
前日に続いて、全員がベッドに入っている。
…………あたしたちの性格を鑑みれば、もう狂ってるといっても過言じゃないわね。全員が同じ時間にベッドに入ってるなんて。
「…………ゆり。」
「決めたの?」
「ああ。………話すよ。」
紫苑君がそう言う。
「無理に話さなくてもいいのよ?」
「いや、話すよ。それに、雫が話しただけだと、俺があらぬ誤解を受ける可能性があるからな。」
………誤解じゃないと思うんだけどなぁ。
「ここでいいの?」
「ああ。」
これは驚いた。
「じゃ、話して。」
「ああ。」
あたしが促すと、紫苑君は少しずつ語り始めた。
「物心ついたときは、もう雫はそこにいたんだ。少なくとも俺の覚えてる限りでは最初からいた。親は両方とも仕事人間だった。親の仕事が上手く行ってた関係で、かなり裕福な家でな。お手伝いさんの手で俺たちは育てられた。
両親がほとんど家にいないこともあって、俺と雫はずっと一緒に居た。俺がある程度家事をこなせるようになると、俺と雫の分の家事は俺がやった。雫が出来るようになってからは、二人でやった。
そうやって、二人でずっと生活していたんだ。
雫は酷く引っ込み思案で、人見知りの激しい奴でな。俺以外の人間と付き合っているのを、一度、現在まで含めても二度しか見たことがない。
そのうち一度は、ゆり、お前たちだ。
どうしてあいつが、お前たちにすぐ懐いたのか、俺には分からんけどな。
あいつが初めて俺以外の人間と付き合ったのは、俺が小四の時だ。
その頃俺には、親友が出来たんだ。
女だったけどな。性別なんて関係なく、馬が合った。
そいつを雫に紹介したら、雫とも馬が合ってさ。
それが、雫が初めて付き合った他人だった。」
それはこの前聞いた。紫苑君のお友達。ずっと、三人で遊んでいたんだっけ………。
「俺たちはそれから三年の間、ずっと三人でつるんでいた。
ずっと、ずっと。
雫と同じ学校だったから、休み時間も一緒にいて。放課後は俺の家に招待して、時間を過ごして。
そんな時間が三年ほど続いた。」
それも聞いた。
その子は、いなくなった。
「俺が小六で、雫が小五の時だ。
詳しい事情は話せないんだが、あいつは、――俺たちと一緒に、問題を起こしちまった。
そこに絡んできたのが親父だ。
親父はその地域きっての有力者でな、自分の息子と娘が問題を起こしたと知れたら大問題だ。
だから、それを主にあいつのせいにしたんだ。
そのせいで俺の地元ではレンの一家はつまはじきにされちまってな、転校を余儀なくされた。
だがその頃には……いや、僅か一ヶ月程度で、俺たちとあいつとの接点は、完全に絶たれていたんだ。
親父が手を回して、な。
だから俺は、あいつがどこへ行ったのか知らない。
今どうしてるのかも知らない。
あいつのことが分かる品も、親父が全て処分しちまったから、あいつの顔も、もう思い出せない。
覚えているのは、綺麗な赤毛のショートカットだった、ってことと、俺があいつを、『レン』って呼んでたってことくらいだ。
本当に、その程度のことしか覚えてないんだよ。
親父に、そういう風にされちまったからな。
それから、俺が中学を卒業するまでの三年間は、また二人で過ごした。
作品名:表と裏の狭間には 七話―想い― 作家名:零崎