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表と裏の狭間には 七話―想い―

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雫は少し落ち込み気味だったけどな。その分、俺が雫を幸せにしてやるって、あの時決めたんだ。
そうやって生きてきた。そして、今に至る。」
「経緯は大体分かったわ。でも、あなたたちはどうしてこっちに出てきたの?」
「簡単なことだよ。中学卒業間際に、両親が死んだんだ。」
「それは理由になってないわよ。」
「まあ、両親が死んで、会社が俺の手に移ったんだ。
そしたら、一気に俺のところに書類が舞い込んできてな。
まだ中学生だぜ。その時。そしたら、会社の重役が、代わりに処理してやるって言い寄ってきてな。
俺はその目をみて分かったよ。俺は何も知らないガキだ。隙だらけだ。
だから、『俺に責任を押し付けて失脚させ、会社を乗っ取るには絶好のチャンスだ』って思ってやがる。ってな。
そうやって鵜の目鷹の目で寄ってきてるのが丸分かりでさ。
『俺がやる』って意気込んだのはいいものの、すぐに手詰まりになってな。
会社の連中も分かってたんだろうな。息を潜めてずっと待ってたよ。
俺は、『このままじゃ雫を幸せに出来ない』と思った。
だから、俺は会社を売った。
こんな腐った連中に乗っ取られるくらいなら、誰か知らない奴に金で買い取ってもらったほうがマシだったからな。
大きな会社だったこともあって、結構な値段で売れたよ。
雑務も丸ごと押し付けて、家も売った。
使用人がどうなったかは知らないけどな。
家も土地も売って、俺の手元には莫大な『金』が残った。
それで、中学卒業と同時に、こっちへ出てきたんだ。
雫には、転校を強いる羽目になったけどな。
そして、流れ着いたのが、光坂だ。」

あたしは、紫苑君の話を聞きながら、驚愕していた。
あたしたちだって、そこそこ酷い人生を歩んできた。
だから、今こうして、その人生を歪めた元凶たる暴力団やマフィアと戦っているのだ。
この子の人生は、それに勝るとも劣らない。
しかも、暴力団やマフィアは、一切関係ないのだ。
その紫苑君を、あたしたちは、このアークに引き込んだ。
強制的に。
それは、果たして正しかったのだろうか。
「紫苑君、じゃあ、改めて訊くわよ。」
そんな迷いを振り払い、あたしは当初の目的を果たすことにした。
「あなた、雫ちゃんのこと、どう思ってるの?」
「どうもこうもない。大切な家族だ。唯一無二の、血を分けた肉親だ。大好きだよ。愛している。勿論家族愛であり、兄弟愛だけどな。」
「雫ちゃんは――」
待て、あたし。
それは言ってもいいのか。
雫ちゃんは、紫苑君を異性として好きだなんて。
そんな事を、あたしのような第三者が言ってもいいのか。
上のベッドから衝撃が伝わってくる。
あたしの上に陣取っている煌が、警告してきたのだろう。
分かっているわよ、そんなこと。
そんなこと、あたしの口から言っていいわけないじゃない。
「雫が、どうしたんだ?」
「何でもないわ。じゃあ、例えば――」
あたしは、せめてもの問いを発する。
「あなたのことを好きな女の子がいるとします。」
「ああ。」
紫苑君は、どういう問いが来るのか、もう予想できているみたいだった。
「その子があなたに告白したら、あなた、どうするつもり?」
「そいつが雫だった、ってオチは止めてくれよ。」
「安心しなさい。からかってるわけじゃないわ。」
「なら、決まってんだろ。」
紫苑君は、言う。
「俺の気持ちにもよるが、多分、受けると思うよ、その告白。」
「そう。雫ちゃんはどうするの?」
「雫は家族だろ。きっと大丈夫だよ。それこそ昔みたいに、三人で上手くやるだろうさ。そのうち、雫の好きな奴も加わって、四人になるといいけどな。」
「……………そう。」
雫ちゃんが受け入れてくれるとは、到底考えづらいけど。
雫ちゃんが好きなのは、あなたなのよ。
そんなことを口走りかけたあたしの口を、必至で塞ぎ。
あたしは、紫苑君を……。
いや、これは違うわね。
紫苑を、讃えた。
「よく話してくれたわね、紫苑。ありがとう。あなたはシスコンなんかじゃないわ。立派なお兄ちゃんよ。」
そう言った。
すると、紫苑からは、意外な返答が帰ってきた。
「お前、やっと俺のことを呼び捨てにしたな。」
「え?」
「他の連中は俺を呼び捨てにするし、あんたも俺以外は呼び捨てにしてるのに、俺だけ君付けだったじゃねぇか。やっと、呼び捨てにしてくれたな。認めてくれたと思っていいのか?」
そう……だったわね。
今までのあたしは、心のどこかで、紫苑を軽く見ていたのだろう。
でも。
今、あたしは考えを変えた。
紫苑は、立派で、対等な、あたしたちの正式なメンバーだ。
「紫苑。」
「何だ?」
「あなた、アークに所属し続けるつもりはある?」
あたしは、気になっていた質問をする。
「あなたはあたしたちが強引に引き込んだ。でも、それは間違っていたわ。あたしたちが上層部に掛け合ってもいい。あなた、脱退するなら、脱退させてあげるわよ。」
そういうと、紫苑は、笑った。
げらげらと。
ひとしきり笑ったあと、紫苑は、こう言った。
「愚問だな。始まりがどうだろうと、今はもう、俺はお前たちの仲間だ。違うのか?」
「そう…………。」
正直、あたしにはこれが正しいのか分からない。
でも、紫苑がいいと言うのなら。
いいだろう。
「じゃあ、これからもよろしくね。あなたはあたしたちの仲間よ。改めて言うわ。あたしたちと一緒に、戦って頂戴。紫苑。」
「今更だな。」
多少不安な点もあるけれど。
目的は、達成できたと思った。

昨夜のゆりは何かおかしかった。
だけど、いくら問い詰めても、ゆりははぐらかすばかりで一向に答えない。
どうしてあんなことを聞いてきたのか。分からない。
ところで。
ゆりの昨夜の台詞、なんか複線っぽいんですけど………。
『あなたのことを好きな女の子がいるとします。』
『その子があなたに告白したら、あなた、どうするつもり?』
しかもその後、俺の呼び方が呼び捨てに変わったし。
これは前振りですか?
なんてな。
あり得んあり得ん。
ゆりはが好きなのは、煌だしな。
それに、俺みたいな目立たない奴を好きになる物好きなんて、そうそういないだろう。
さて。
何か以上に疲れた。
帰ったら風呂に入って、久しぶりに雫の手料理を食べよう。
そしたら、大分住み慣れたあの家で、ゆっくり眠るとしよう。

紫苑は気付いていない。
ゆりも気付いていない。
まあ、気付くわけもない。
四年前にどこかへ行った親友が、実は今、紫苑自身のすぐ傍にいることなど。
その親友によって、これから、柊家に大いなる混乱がもたらされることなど。
虫の知らせという形ですら、知る事はない。
この時の会話が、本当に複線だったとは、誰も思わないのであった。

続く