機械修理人 壱と半分-親月-
例えば、本棚にある本は、右から背の高い順に並び、机の上もごみ一つないくらい綺麗だ。洋服ダンスも、同系色毎に固まって入っている位だ。足の踏み場はあるが、ぐるり見渡すとやはり散らかっている修理人の部屋とは真逆なのであった。部品集めや、仕事以外には殆ど頓着しない修理人を支えるのがこの部屋の持ち主の少年なのである。
炊事洗濯整頓、そしてお財布の管理を特技としている彼のお陰で、修理人は生きていけると言っても過言ではない。それ程、生きる為に必要な「衣食住」の内の「食」に関して頼りきっていた。入ってから気が付いた事だが、この日は珍しく灯りが付けっぱなしだった。
普段ならば
「電気はこまめに切る、蝋燭やランプも使わないならば消す!!」
と怒鳴りながらつけっぱしの灯りたちを消している。だがそんな事も忘れる程の何かがあったのだろう、と修理人は心配をした。
心配の対象である少年は、ベットに横たわっていた。近づいても起きる気配もなく、かたく瞳を閉じている。そっと、包帯が巻かれている手で髪に触れた。ピクリとも反応を返さない。何時もと違う、修理人は感じながら、又包帯の手で髪を撫でた。何度も撫でる。撫でる度に愛おしさが大きくなるのを感じていた。
「随分と暑かったからね、もう少しゆっくり休んでいて…」
聴こえていない少年に語りかけた後、上半身を起し、背中に両腕を回して優しく抱きしめた。一分ほど経過すると、
「うん…」
と何かに納得したように相槌を打ち、少年をベットに横たえ、修理人は静かには部屋を出た。
その際には、灯りを消す事も忘れなかった。
作品名:機械修理人 壱と半分-親月- 作家名:くぼくろ