雪の宿命を乗せて
母は五十七年前に。
そして妹は二十五年前に、悠馬の前から消えて行ってしまった。
しかし、この満月の冬の夜に、悠馬は当時の姿のままの二人に再会した。
なぜこんな奇妙なことになってしまったのだろうか。そこには何か深い理由(わけ)がありそうだ。
母は涙を拭き、「ここからの話しは、他言しないように」と念を押し、口を開いた。そして、いきなりこう告げた。
「私達は・・・・・・雪女の血を引いているのよ」
雪女がもし男と結婚をし、家庭を築き、普通の暮らしをすれば、その周りの人達に不幸が起こる。だから雪女にとって、生きていける場所、それは雪山だけしかない。
悠馬はそんな程度のことは知っていた。
そして今、五十七年ぶりに再会した母が、いきなり自分達は雪女だと言う。悠馬はそれを聞いて驚いた。
「雪女?」
「そうなの、雪女はね、雪山の神の掟に従わなければならないのよ」
母は辛い宿命を背負ったように、悲しそうに言う。
「雪山の神の掟って、どんな掟?」
悠馬は直ぐさま聞き返した。
「それはね、雪女の血を引く娘は、一番美しい時に、雪女にならなければならないと決められているのよ」
「ふーん」
悠馬にはそうとしか答えようがない。
「そして雪女になれば、その時の若さと美しさが、永遠に保たれることが約束されるのよ」
「それでなの、雪女になるために・・・・・・消えたのは?」
悠馬は不満だった。
「私も美雪も、雪女になるために悠馬の前から消えたわ、確かに断っていれば、また違った人生になっていたかも知れないね」
母に少し後悔があるようだ。
「それだったら、断れば良かったのじゃないの」
悠馬は少し母を責めた。
母はますます悲痛で、苦しそう。
そんな母を見ていた美雪が、母を支えるように口を開く。
「お兄ちゃん、わかって頂戴、断るにはね、男の命を捧げる必要があるの」
悠馬はこれを聞いて、およそのことが解ってきた。
「雪女の血を引く娘は、その一番美しく輝いている頃に、一つは雪女になるのか、それとももう一つは、男の命を捧げて免れるか、そのどちらかを選択することが迫られる、そういうことなのか?」
「その通りなのよ」
母と美雪は、悠馬が言った解釈に口を揃えて返した。