雪の宿命を乗せて
雪女の血を引く娘は、一番美しい時に、自分の道を選ばなければならない。
雪女になり永遠にその美しさを維持するか、それとも男の命を捧げて、普通の人として生きていくか。
「それでお母さんは、男の命、つまりお父さんかお兄ちゃんの命を捧げることができなかったのよ。お母さんの辛かった気持ちをわかってあげて」
妹の美雪はそう話しをして、兄の顔を覗いてくる。
そして今度は母が言う。
「悠馬、御免なさいね、美雪を雪女にしてしまったこと。美雪はね、どうしてもお父さんとあなたの命を奪うことができなかったのよ」
ここまで聞いて、悠馬は今までのすべての謎が解けてきた。
だが確かめておきたいことがある。幼い頃、初雪が降る中、美雪の手を引いて、母が列車から投げてくれるというプレゼントを鉄橋まで拾いに行った。
あれほど悲しいことはなかった。
あれは本当に、母がしてくれたことなのだろうか。それが母でありさえすれば、それは許せること。
「あのプレゼントは、お母さんが?」
「そうよ、お父さんは、雪女の宿命を多分知っていたのでしょうね。だから死ぬ覚悟で雪山に登ってきてね、一年に一度だけでも逢わせてやってくれと、雪山の神にお願いをしてくれたのよ」
母と子供達を繋ぐたった一年に一度の絆。
あの列車から母はやっぱり見ていてくれたのだ。悠馬はそう思うと、また涙が止まらない。
そして目の前では、娘と同じ歳くらいの母が泣いている。
だが、悠馬はもう還暦も過ぎる歳になってしまった。自分達に降りかかった宿命。それが、母と美雪にとって、どれだけ辛いものであったかが解る。
「お母さんと美雪、二人が突然行方不明になったこと、もう何も責めないよ」
悠馬は優しく、冷えた二人の身体をしっかりと抱き寄せた。
しかし、母も美雪も何かもっと悲しいのか、さらに激しく泣き始めるのだった。