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雪の宿命を乗せて

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二十五年前に、北へ向かう列車に乗って消えてしまった妹の美雪が、今目の前にいる。
しかも歳も取らずに、昔の容姿のままで。

そして美雪はさらに言った。今から数えると五十七年前に、幼い兄と妹を残し、消えてしまった母がそこの広場で待っていると。

悠馬は混乱して、どうして良いのかわからない。
しかし、ここはまずは逢ってみようと、「わかった、行くよ」と返した。

外へと出てみると、もうすっかり雪は止んでいた。そして中天には、大きな青白い満月がある。
その光は地上のこの小さなの町まで届き、積もった雪をキラキラと輝かせ、辺り一面を照らし出している。

悠馬が広場に着くと、そのぼんやりとした明かりの中に、一人の妖艶な女性が立っていた。

しかし、まだ若い。
その女性も、娘と同じくらいの年頃だろうか。
悠馬がその女性に近付くと、突然に。

「悠馬、今までのことは許して頂戴」
 その女性はそう言って、積もった雪の上へ泣き崩れた。

「お母さん、もう泣かないで、お兄ちゃんに、雪山の掟を話せば、きっとわかってくれるわ」

悠馬のそばに寄り添っていた美雪が、その女性のことをお母さんと呼んだ。

悠馬は、月明かりの下で、その女性を注意深く見てみる。
そう言えば確かに・・・・・・母親だ。
幼い時に、その胸に飛び込んで行き、甘えた母親がそこにいる。

母が消えてから、ここに至るまでのいろんな出来事が走馬燈のように蘇ってくる。そして、言うに言われない複雑な思いが胸を突いてくる。

「お母さん、逢いたかったよ」
悠馬はそう一言呟いた。
そして、涙が止めどもなく溢れてきて止まらない。

五十五年前だった。
あの鉄橋のそばで、幼い妹、美雪を抱え、寂し過ぎて泣いた。あの時と同じように涙が零れ落ちてくる。

「お兄ちゃん、お母さんに逢えて良かったね」
美雪もそう言って泣いている。

悠馬は、妹を気遣うようにその手を取った。そして母のそばへと歩み寄り、二人をしっかりと抱き締めた。

しかし、その時、悠馬ははっと気付く。
母と妹には体温がないと。


作品名:雪の宿命を乗せて 作家名:鮎風 遊