雪の宿命を乗せて
妹の美雪は、悠馬を涙目ながらも真正面に見据えてくる。
そして実に苦痛を滲ませながら、ぽつりぽつりと呟く。
「お兄ちゃん、聞いて頂戴・・・・・・雪歌ちゃんが、今・・・・・・一番美しいの」
悠馬はこれを聞いてはっとした。
そして心臓が止まりそうにもなった。
「そうか、今度は娘の雪歌の番なのか?」
悠馬は急に腹立たしくなってきた。
今までのことはもう済んでしまったこと。元へは戻らない。
しかし、一人娘の雪歌だけは雪女にはなって欲しくない。
普通に好きな男と一緒になって、幸せに暮らし、そして老いていって欲しい。
「悠馬、落ち着いて聞いてね、雪山の神にお願いしたのよ。雪歌のことは、父親の悠馬に決めさせてやって欲しいと」
母が寂しそうにそう言った。
そして美雪も続いて、「お兄ちゃん、雪歌ちゃんを、私達のような雪女にするのか、それとも男の命を捧げるのか、その選択を、お兄ちゃんに任せてやって下さいとね」。
そう告げてしまった美雪は、えんえんと泣き出した。
しかし悠馬にとって、その答は簡単だった。
「心配しないで、俺も随分と歳を取ってしまったよ、だからもういいんだ・・・・・・この命を捧げるよ」
悠馬は迷いもなく、そう言い切った。
三人の沈黙が、ずっと続く。
冷たい北風に運ばれてきたのか、粉雪がさらさらと降り出した。もう少し時が経てば、吹雪き出すだろう。そして、母が遂に言った。
「悠馬、わかったわ、お前の決意が。もうこの辺で、悠馬が雪女の血を絶ってくれるのね、ありがとう」
「うん、そうだよ」
悠馬は母と美雪の手をしっかり握りしめて、そう返した。
「じゃあ、満天の星の夜に、北への列車に乗って、雪山へと登って来て頂戴」
母はそう言い残して、美雪とともに、吹雪き始めた雪の景色の中へとさっと消えていった。