雪の宿命を乗せて
悠馬は、駅前の小さな赤提灯で、雪歌の彼氏に会った。
「雪歌と、一生一緒に仲良く暮らしてやってくれ」
悠馬はその青年に、心から頼んだ。
青年は、「わかりました」とはっきりと答えてくれた。
悠馬はその言葉を聞いて、北へと向かう列車に飛び乗った。
多分、母も美雪も、このようにして消えていったのだろう。
列車は町外れの鉄橋をぼーぼーと大きな警笛を鳴らし、北へとより速度を上げ始めた。
そして雪深い山の中へと突進していく。
その途中の高原に、小さな無人駅がある。悠馬はそこで一人降りた。
そしてそこから雪原を越え、雪山へと登っていった。
空には満天の星が輝いている。
美しい。
今、地上にある真っ白な世界が宇宙に吸い込まれ、一体化していくようでもある。
悠馬は、もうその年齢では、これ以上登れない所まで辿り着いた。
そして、雪の上にごろんと大の字に寝っ転がった。
冬空の星が全部自分に降り注いでくる。そしてよく見ると、キラッとした輝きの微かな残像を残しながら、次から次へと星が流れてる。
いつの間にか、母と美雪がそばに寄り添ってきてくれた。
「悠馬、よく決心してここまでやって来てくれたね。やっぱりあなたは、本当に心の優しい子だったわ」
母がそっと手を握ってくれた。
「お兄ちゃん、ゴメンね、雪歌ちゃんをしっかり守っていくから、安心してね」
妹の美雪が頬をすり寄せてくる。
「もう何も後悔ないよ。お母さんも美雪も、永遠にその若さと美しさのままで生きていてくれよ、その内、幾千万年かの年月が巡り、また逢えるかも知れないからな」
悠馬はそう囁いた。
「私達は、この雪山で、永遠に待っているからね」
母はそう言って、悠馬に優しく微笑んだ。
そして北の冬空に、キラリと光りを放ちながら星が一つ流れた。
こうして悠馬は、その男の命を、雪山の神に自ら捧げたのだった。
この雪山から望める小さな町がある。
今、列車がまた一つ、その町を発車した。
そして鉄橋を渡ってるのだろうか、遠くの方から微かな警笛が伝わってくる。
それはまた、新たな男と女の雪の宿命を乗せて、北へと走り出したという合図なのかも知れない。
おわり