【第七回・四】うさもさ
「…ひぃ~らいたひらいた…でっけぇ目~…」
悠助が指さしたウサギの目は大きくどこを見ているのかしきりに鼻をヒクヒクさせて顔を小刻みに向きを変えている
「赤い目だったんだね~可愛い~」
悠助がウサギに近づき撫でると慧喜がむすっと膨れた
「…タカちゃん?」
ウサギを抱いていた制多迦の手が震えていることに気付いた悠助が制多迦を見上げた
「…っ」
いつも半分閉じかけの眠そうな目から一転して見開かれた制多迦の目は黙って赤いウサギの目を見ていた
「おい…大丈夫か??」
あからさまにいつもの制多迦とは違う制多迦の様子に京助が声を掛けた
「僕は…」
矜羯羅以外の全員が自分の耳を疑ったのは制多迦独特の最初の一言が聞き取れない前消し喋りではなかったからだった
「今…はっきり最初の言葉…言ったっちゃよね…?」
緊那羅がもしかして自分だけだったのではと思い京助を見た
「…あ…あぁ…俺も聞こえた…」
京助が呆気に取られた顔で頷く
「あっ! ウサギっ!;」
制多迦の手の力が弱まったのかウサギが床に落とされたのを見て悠助が声を上げた
「矜羯羅様…!!」
慧喜が尋常じゃない制多迦の様子を見て矜羯羅の服を掴んだ
「制多迦様は…」
「…大丈夫」
そんな慧喜の手をゆっくり放して矜羯羅が制多迦の額に人差し指をつけた
「…【僕がいるから】…」
矜羯羅が制多迦に言った言葉を聞いて京助が制多迦を見た
『…くが眠ると目覚めた時は…周りがみんな赤かった』
縁側で聞いた制多迦の話を思い出す
『…ままで何度か眠ったけど起きるといつもその赤い中に矜羯羅が悲しそうな顔でいるんだ』
「…でもね…」
矜羯羅は更に何かを言おうとしていた
「今は僕だけじゃない…皆いるから…だからホラ…【帰って】おいで」
トン…と軽く制多迦の額を突いて矜羯羅が言った
「…催眠術か…?」
しばらくして京助が口を開いた
「違うよ」
矜羯羅が制多迦の額から指を離した
「僕はただ制多迦を呼んだだけ」
そして矜羯羅が指を鳴らすと玉が勢いよく制多迦の頭に気持ちい音と共に当たった
「…たい;」
そして頭をさすりながら制多迦が言う
「…最初の言葉は…」
緊那羅が京助を見た
「…聞こえなかったな」
ホッとした空気が茶の間に流れた
「タカちゃんどっかいってたの?」
ウサギを抱えて悠助が制多迦の顔を覗き込んだ
「…?」
きょとんとした制多迦が悠助を見る
「だってきょんがらさんが…」
「悠助」
途中まで言いかけた悠助の言葉を矜羯羅が遮った
作品名:【第七回・四】うさもさ 作家名:島原あゆむ