盲想少女 ガラシャさん
(3)スルーされたら、石化して空港に設置されているオブジェになりきる。
でも今日1日かけて考えたサプライズは、この後ことごとく粉砕されてしまった。
その14 ワープ若しくは人工冬眠
8月12日 またまた晴れ
今日は何事もやる気がせえへん。
だって、せっかく成田まで行ったのに、岩清水さんに声すらかけられなかったのだ。
奮発した花束は、あきらかにミスマッチだが、うちの玄関に飾ってある。
岩清水さんの乗った飛行機は、ほぼ予定通りに空港に到着した。
そろそろ、あたしもゲート前に移動しようと、音楽を聞いていたヘッドホンを外し、振り返ってみて呆然とした。
いつの間にかゲート前には、花束を抱えたファンらしき人達や大勢の報道関係者が壁を作っていて、もうあたしが入り込む隙間など微塵もなかった。
悠長に音楽など聞いていた、あたしが悪かったのかも知れないが、あらためて岩清水さんが有名(天才)ピアニストなんだと思い知らされた。
あたしは来るときとは打って変わって、額に落ち込んだ時のちび〇子ちゃんのような暗い影を付け、電車の中で半べそをかきながら帰ってきたのだった。
と言う惨めな状況なので今は何もやる気はしないし、何時になく超暑いので、今日も朝はカップラーメンにする。
熱々くん(電気ポット)は、お湯を注いでいたら途中で、 ガホ、ガホッっと「お前に使わせる湯はもうねぇ」みたいな態度に出た。
今朝は、きっとパパがコーヒーを一杯多く飲んで出かけたのだろう。
この間は返り討ちにあってしまったが、今度こそ隙を見つけて背後から蹴りを入れてやる!
熱々くんでお湯を沸かすと時間がかかるので、エレコックさん(電子レンジ)でマグカップ一杯分のお湯を沸かす。
(エレコックさんはロボコップみたいで気に入っているが、この名前で呼ぶ頻度は少ない)
でも途中でお湯を足したカップ麺は、ちょうどいい具合の麺とぐちょぐちょ麺のダブル構造になってしまった。
一度で二つの食感が楽しめますとテンションをあげてみるが、前回に続くクチャクチャ麺にさらに落ち込む。
まだ起きたばかりだけれども、もう布団をかぶって明日の朝までワープ若しくは人工冬眠でもするしかない。
そうネガティブになっていると・・・
♪♪♪~♪♪
あ〇にゃん用に設定した着メロが鳴った。
恐る恐るトモちゃんの受信箱を開くと「ただいま。 そしてありがとう」の件名が。
何のことか分からず、メールの本文を読み始める。
ゆら ゆら
あれれ、おかしいな。 なんだか目がかすむぞ。
いや、涙が溢れていた。 珍しいことに”よだれ”では無い。
『梓です。 ガラシャちゃん、昨日空港に来てくれたんだね。 気が付かなくてごめんなさい。 新聞に載ってた写真にガラシャちゃんが映ってたよ。 夏休みの後半の予定は開けてあるので、後でガラシャちゃんの予定を教えてください』
グギョーッ
あたしの写真が新聞に載ってるって?
電光石火でニコ動さん(ノートPC)を起動し、各新聞社のWebサイトの記事をチェックする。
すると・・
Y新聞の掲載写真は、背伸びをして岩清水さんを覗こうとしているあたし。
M新聞は、呆然と立ち尽くすあたし。
S新聞は、ガックリ肩を落として帰りかけているあたし。
まるで、パラパラ漫画にでもなりそうだ。
大きな花束を持っているので、ある意味、岩清水さんより目立っている。
まぁ、この写真のおかげで岩清水さんにも気付いてもらえたんだし、何しろ岩清水さんがあたしの事を苗字でなく名前で呼んでくれた事も超うれしい。
あたしは、ワープや人工冬眠の事はリセットし、代わりにメールの返事を速攻で打ち込み始めた。
その15 新しい友達 その1
8月13日 いいかげん嫌になるが今日も晴れ
昨日、あたしが速攻で送信したメールに、岩清水さんも直ぐに返事をくれた。
それに何と嬉しい事に、前のメールの通り、夏休みの後半をほとんどあたしのためだけに空けてくれたのだ。
まったく、ええ娘やわ~。
これなら、あんな事やそんな事も全部できちゃうかも知れへんなぁ。 うふふっ
それで、早速今日の午後から夏休み後半の計画を立てるため、岩清水さんの家(おそらく豪邸)で相談する事になった。
岩清水さんの家に行ってから二人で考えるのも楽しいけれど、ある程度自分の考えを整理していった方が計画をより深く検討できるだろう。
あたしは去年の夏コミで大量に買い過ぎて余っていたアニメキャラのメモ帳に、楽しそうな事を思い浮かべながら書き出し始めた。
(1)渋谷、表参道、原宿あたりで、ふらりとショッピング (でもお小遣いはピンチ)
(2)この夏ヒットしている映画を見に行く(できればコ○リコ坂からがいいな)
(3)海辺のペンションに泊まって海水浴。 やっぱ夏だもんなぁ!
(4)東京スカイツリー展望台ツアー (あたしは高いところは苦手だけど一度は行ってみたい)
(5)お泊り会で生あ○にゃん抱き枕(あたしだけのピアノリサイタル付)
だんだん妄想っぽくなってきたので、ここらでやめておこう!
あたしは、涼しげな淡いブルーのワンピに着替えて、約束の時間に間に合うように最寄の駅に向かった。
車内は通学時間のように混んでなかったから良かったが、電車は節電対策であまり涼しくない。
岩清水さんの家は、二つ先の駅から歩いて5分くらいの所にある。
前にネットで検索した時、ついでにgoogleの航空写真で見たら、自衛隊の基地かと思ったくらい広い庭?
兎に角、庶民のあたしの理解を超える規模だ。 おまけに駅に近い所に玄関?が無い。 ちょっとした嫌がらせみたいやわ~。
あたしは、暑がりの寒がりである。 少し動いただけで、けっこうな汗を掻く。
この前、岩清水さんと会った時も、プールに服ごと落ちてしまったドジ女のようになっていた。
なので今日は日笠を差している。 ちょっとお嬢様っぽい。 ホホホッ
日笠をしなくても、あたしの色白のお肌は赤くなるだけで、日焼けしたことがない。
岩清水さんは、あ〇にゃんのように黒くなるのか一度試してみたい。
ならば、海辺のペンション案が有力か!
サマーズの様にもやもやとしながら歩いていると、意外に早く門のところまで着いてしまった。
ああっ、アメリカ軍の基地みたいにゲートに警備員が立ってる。 それになんで、あんなところに駅前のロータリーみたいな物があるの?
あたしはトモちゃん(携帯)を取り出すと、『ごめん、やっぱ無理』と打ち始めた。
「あ~っ! ガラシャちゃん。 待ってたんだよ~。 暑かったでしょう。 みんなで早く涼しいお部屋に行こうね~」
もう帰るつもりで後ろ向きに携帯を操作していたため、後ろから突然腕を掴まれると同時に声もかけられたので、もの凄く驚いた。
それにみんなって・・・だれ?
その16 新しい友達 その2
みんなって? あたしは、ゆっくり振り返った。
そこには、あ〇にゃんと、かわゆい女の子がもう二人立っていた。
にゃは~っ
あたしは、かわゆいものが大好きだ。 これでスリーストライクだ。
バッター(あたし)アウト。 ついでに目の前も真っ暗になった。
・・・
・・
・
あたしは不覚にも熱中症で倒れたらしい。
作品名:盲想少女 ガラシャさん 作家名:a-isi