小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

盲想少女 ガラシャさん

INDEX|5ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

ゼイ ゼイ ハァ ハァ
しゃべりたくても息が上がって言葉が出ない。
岩清水さんがレースのハンカチをそっと差し出してくれたのだけれど、あまりに高級そうなので自分のハンカチを使う。
汗を拭いてて気がついたのだけれどハンカチには、あたしが楽しみに録画して見ている深夜アニメのヒロインが、でかでかとプリントされていた。
さらに余計な汗が吹き出てしまった。

「昨日は電話できないで、ごめんね。 ピアノのレッスンが遅くまでかかってしまって」
あたしが、夏バテした大型犬のように、ハァハァしているので、岩清水さんが先に話し出した。
「あっ、いや。 あたしの方こそ、ごめん。 なんか行き違いばっかりで・・」
クスッ
「ほんとだね。 さっきも細川さん家の電話にメッセージを入れてから出てきたんだよ」
「えっ、そうなんだぁ」
『ちぇ~っ、本当にいつもタイミングが悪いなぁ・・』

「うん。 それでね、今日もこれから用事ができちゃって・・」
「そっか。 でもここで会えてよかったよ。 これからトモちゃんじゃなかった、携帯を新しいのに換えに行くんだ。 メアドや電話番号は引き継ぐから、よかったらまたメールちょうだいね」
「うん。 そうするね」

岩清水さんは、にっこり笑って、あたしに手を振りながらトコトコ歩き始めた。
「あのっ! ・・・夏休み中に、また遊べるよね?」
もう、これっきりになってしまいそうで、あたしは岩清水さんの後ろ姿に追いすがるように必死に声をかけた。

「うん。 予定を確認したら必ずメールするね~」
やばい。 泣きそうになってるかも。
あたしは、無理やり笑顔を作って、ひらひらと手を振りながら、あたしのあ〇にゃんを見送った。




その12 驚愕の事実とGJ
8月7日 晴れ

あれから5日が過ぎたが、新しくなったトモちゃん(携帯)のメール着信音は、まだ鳴らない。
夏休みも残りあと24日となってしまった。 ちょっぴり切ない。

18階から真夏の濃い青空を見上げる。
今日も一日、ネット三昧になりそうだ。

朝ご飯を作るのは面倒なので、今日はカップラーメンで済まそう。
熱々くん(電気ポット)の熱いお湯を注ぎリビングまで運ぶが、お湯を多めに入れたので途中熱くて投げ出しそうになる。
でもそれを片付けるのも結局自分になるので、そこはぐっと耐える。

3分間は確実に待つので、その間に風通しが良いリビングに、真っ赤なボディのニコ動さん(ノートPC)を移動させる。
前の家で使っていた時はケーブルが付いていたけど、ここに引っ越してからは無線LANで便利だ。
おまけに画面の表示も速い。

いつものようにパソコンを立ち上げ、ブラウザを起動する。
何気に「岩清水 XX駅」とあたしが知っている数少ないキーワードを入力して検索してみた。

「えっ? 何これ・・・」
あたしは、夢を見ているのかを確認するため、朝ごはんのカップラーメン用のフォークで手の甲を刺してみた。

グギャッ
手の甲に3つの赤い点が出来た。 痛くて涙目になる。
もう少し手加減すればよかったと後悔する。

ディスプレイに表示された【驚愕の事実の幾つか】の中には、あ〇にゃんに関係するものも見つかった。

どうやら彼女は、天才ピアニストらしい。
直近の記事によれば、岩清水さんは今、ヨーロッパ公演中だ。

はぁ~
『あのっ! ・・・夏休み中に、また遊べるよね?」』
岩清水さんに最後にかけた言葉を思い出す。
あの時、あたしにはヨーロッパに行くことは教えてくれなかった。
あたしが悲しい顔をするのを見たくなかったのかな。 それともプライベートまで教えるほどの仲ではないと思われているのかな?

はぁ~
溜息しか出ない。
お金持ちのお嬢様。 天才ピアニスト。
ああ、あ〇にゃんが、あたしからどんどん遠ざかって行く。

あたしは気を取り直して、岩清水さんの記事をチュー太郎(マウス)で順番にクリックして行く。

おおっぅ・・・

表示された記事の中には、ピアノを演奏する岩清水さんやステージで挨拶している写真も載っているではないか。
コンサートで着ているドレス姿も超カワイイ!

萌ーーーーっ!!
もう、胸がキュンキュンして、カップラーメンも食べられへん。
ってか、麺伸び過ぎて溢れてるしっ!

『あぁ、かわゆい~。 かわゆ過ぎるだろぉーーーーっ!!』
興奮気味のあたしは、リビングのテーブルの周りを意味も無くグルグル周り続けた。
もう少し回っていたら、溶けてバターになっていただろう。
もしかしたら、グルグリさんにだって勝てるかもしれない。

『絶対に手に入れる! 何としても手に入れる!』
あたしの〇ンテル入ってるは、少々熱暴走気味だ!
アイス〇ンか冷え〇タをおデコに貼る必要があるかも知れない。

「と、取り敢えず、画像を保存して、ついでに印刷もしておこう」

カチッ
チュー太郎はお腹を赤く光らせながら良く動き回る。

ジーッ ジーッ
離れたところにあるプリ子さん(インクジェットプリンタ)から、あ〇にゃんが、じゃなかったあ〇にゃんの写真がスコスコと出てくる。

4コア搭載のあたしの明晰な頭脳を持ってしても、離れた遠くにあるプリンタから印刷される仕組みは理解できへん。
だって、あのプリ子さんは、たったの9800円だぞ。
あたしのワンピの方がよっぽど高いやないの。

プリ子さんが印刷してくれた写真は、凄い高画質だ。 プリ子さんGJ、GJ・・
あとで写真はパウチして定期入れに入れておこう。

うふふっ
これでいつも一緒だよっ! あ〇にゃん♪



その13 空港オブジェ

8月11日 晴れ

今日はあ〇にゃんがヨーロッパ公演から帰ってくる日だ。
今更だけどインターネットは、とても便利だ。
チュー太郎の左耳を押すだけで、大抵の情報は簡単に手に入れることができる。

あたしは、この夏休み一番の早起きで、成田空港へ向かった。
ちょっとストーカー気味なのは自分でも気にはなっているけど、あたしはあ〇にゃんに危害を加えたりしない。・・はず。

あたしのうちでは、年に一度は海外旅行に行っている。
いや、正しくは行っていただ。
あたしが高校生になってからは、両親も仕事が忙しくなって旅行どころでは無いようだ。

そういう事情で成田空港は関空ほどでは無いが、よく知っている場所だ。
確か、あ〇にゃんの乗った飛行機なら、到着ゲートはこっちのはずだ。

あたしは、だだ広い空港内を大きな花束(予想以上に高かったわ~)を持ってテクテク進む。
動く歩道は、大きな荷物を持っているわけでも無いのでパスだ。
夏休み前半は家でゴロゴロしていたので、ダイエットも兼ねている。
『あっ、ここだ、ここだ』
あたしは、目的のゲート前に到着したので、近くにあったプラスチックのツルツルした椅子に腰を掛けて待つことにした。

あ〇にゃんがゲートから出てきたところで声をかけて、びっくりさせちゃおうと言うのが、今回のサプライズだ。

その後のことは、あ〇にゃんの反応次第で幾つかのパターンを考えている。

(1)迷惑そうな顔だったら、違う友達を迎えに来たところ偶然見かけたと誤魔化す。
(2)嬉しそうだったら、優しく抱擁しちゃう。 きゃっ♪
作品名:盲想少女 ガラシャさん 作家名:a-isi