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盲想少女 ガラシャさん

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その日までには、何とか妄想をコントロールできるようになっていなければならない。

ああ、あ〇にゃんのメールが待ち遠しい。




その9 雷さまの意地悪
7月31日 晴れのち夕立
昼間は猛烈に暑かった。
その暑さで見事な入道雲がモクモクと湧いていたが、4時頃急に稲光がしたと思ったら、近くの工場の煙突に雷が落ちた。
ビカッ
ギャー

雷があまり近くに落ちると、最初にビシャッ みたいな?音がする。
そのあとは、ド・ドォーンって感じ?

あたしは少し動揺してトモちゃん(携帯)に「トモちゃん。 あ、あ〇にゃんからメール来ないねぇ・・」と愚痴ってみた。

そうしたら、もうすぐ3年の付き合いになるトモちゃんは、実に友達甲斐のある返事をくれた。
♪♪♪~♪♪
そう、岩清水さん用に設定した着メロが鳴ったのだ。

急いで受信箱を開くと、16:03 あずさ 「件名:明日は空いてますか?」のメールが。

速攻で返信しようとボタンを操作するが反応しない。
んっ? なんで?

「ト、トモちゃん。 悪ふざけはやめようね。 新しい友達なんだからさ。 もちろんトモちゃんとは、これからもず~っと一緒だよっ!」

あたしは、トモちゃんにつながった充電用のコードがコンセントに刺さっているのを見ながら、雷さまの意地悪っと呟いた。
突然、約3年間もマブ達だったトモちゃんと別れる事になった日の夜、零時を過ぎて帰宅したママの携帯を借りて、岩清水さんのメアドを登録した後、雷であたしの携帯が壊れた事と返事が遅くなった事のお詫びメールを送信した。
午前1時近くに送信した非常識なメールには、当然であるが返信は無かった。

あたしは、悲しくて、哀しくて、この日は朝まで眠れなかった。




その10 本当のお金持ち

8月1日 晴れ
悲しくて眠れなかったのは今朝の6時までだった。
気が付けばもう夕方近くで、これはママが会社に出かける時にエアコンの温度を26℃に設定してくれた所為ばかりではない。
のろのろと起き上がり、冷たいものでも飲もうとリビングを通ってキッチンへ行く途中、留守電ありのランプがピカピカしているリンちゃん(固定電話)に気付く。

恐る恐る再生ボタンを押すと最初のメッセージはママからだった。

『ママで~す。 岩清水さんからママの携帯にメールが届いたので、家の電話番号を教えておいたからね~』
『1件目 8月1日 午前8時12分です。 ピィー』

『細川さん? 岩清水です。 雷怖かった? それで携帯壊れちゃったんですって? 今日の午後からなら遊べるよ? 連絡待ってます。』
『2件目 8月1日 午前9時24分です。 ピィー』

・・・
なんて事だ! もう少しで夕方の5時じゃないか。

あたしは慌ててリダイヤルボタンを押した。

トゥルルル トゥルルル トゥルルル
ガチャ

「はい、岩清水でございます」
受話器からは、予想外の男の人の低い声がする。
岩清水さんのお父さんって、もうこの時間に家にいるんだ。 うちのパパとは大違いだ。

「あの、あたし梓さんのクラスメイトの細川と言います。 あ〇にゃんじゃなかった、梓さんはご在宅でしょうか」

「申し訳ございません。 梓お嬢様は、ただいまピアノのお稽古でお取次ぎできません。 後ほど細川様からお電話を頂戴した旨、お伝えしておきます」
「はぁ、それでは、よろしくお願いいたします。 失礼しま~す」

カチャ
ツー ツー

考えてみれば都内でも有数の進学校は、超有名私大の付属高校で、お金持ちの子供がたくさん通っていた。
細川家も両親が共働きで二人合わせた年収は3000万円を超えると自慢話しを聞かされた事を思い出す。

でも、どうやら岩清水家には執事がいるようだ。 これは本当のお金持ちだ。

こっちからの電話で話しができないのなら、岩清水さんからの連絡を待つしかない。

この日、夜遅くまで寝ないで頑張ったあたしは、家中の目覚ましを朝7時にセットして枕元に並べた。
こう見えても、あたしは同じ失敗はしないタイプなのだ。 えっへん。




その11 マサイの戦士

8月2日 曇
火災報知器がけたたましく鳴り響く中、あたしは煙に巻かれ逃げ遅れていた。
目の前は、モウモウとした煙で全く視界がきかない。
時々あちらこちらから、真っ赤な炎が見え隠れしている。

もう助からない。 これはどの時代でも、細川ガラシャの運命なのだろうか。
どうせなら、岩清水さんともう一度楽しいひと時を過ごしたかったなぁ・・・
涙がスゥーっと頬を伝わり流れた。

そこでハッと目が覚める。
枕が涙で濡れている。
いや、間違え。 涙にしては濡れている位置がずいぶん下の方なのでヨダレかな・・うん、ヨダレだろう。

火災報知器だと思ったのは、一度では起きないあたしへの、目覚まし時計どもの一斉報復攻撃だった。

岩清水さんは、どうやらお金持ちのお嬢様らしい。
あたしが遊びに行くには、いろいろとお家の都合もあって、自分の自由にはならないって事なのだろう。

きっとピアノ以外にも、いろいろな習い事があって、本人の自由になる時間が少ないに違いない。

ボォ~とする頭をスッキリさせたくて、滅多に飲まない紙パックに入ったアイスコーヒーをコップに半分ほど注ぎ、牛乳で割って飲んだ。
30分ほどソファにかけて、朝のニュースなどを眺めていると徐々に頭が冴えてる。

学校以外で岩清水さんが、あたしと一緒の時間を過ごせる確立はいったいどれくらいあるのだろう。
あたしと岩清水さんの楽しい時間を増やすために、何かできる事が無いか、よく考えてみよう。

11時を過ぎていたので、あたしは外出着に着替えてからトモちゃん(携帯)と昨日パパに書いてもらった携帯電話の機種変更で必要になる委任状をポシェットに仕舞って家を出た。
今日は曇っているのに蒸し暑い。 少し歩いただけで、じっとり汗をかいている。
Do〇oMoショップは、まだまだ遠い。
あたしは汗を引かせるために、いったん涼しい場所に避難する事にした。

どこかに涼げな良いお店はないかと、辺をキョロキョロしていると、なんと通りの反対側ををトコトコと歩いている小学生・・じゃなかった、岩清水さんを発見した。

「おお~い。 岩清水さぁ~ん!」
あたしは通りを行き交うクルマの音にも負けないくらいの大声と、もうこれ以上は振れないと言う限界まで両手を振りながら、ピョンピョンと飛び跳ねて岩清水さんを呼んだ。
傍から見たら、まるでマサイの戦士かと思われたに違いない。

恥ずかしさを我慢して何回も飛び跳ねた甲斐があって、岩清水さんも気が付き、手を振って答えてくれた。
運が悪いのは生まれつきで、道路の中央分離帯の柵が邪魔になり、通りの反対側に行くのには、いい加減先の歩道橋を渡らなければならなかった。
あたしは、一刻も早く岩清水さんと話がしたくて、生まれてから16年間の中ではおそらく一番の猛ダッシュで歩道橋を一気に駆け上がり、反対側の歩道を岩清水さん目掛け突進した。
おかげで、あたしは滝汗を掻いて、まるで洋服のままプールに落ちたドジ女みたいになっていた。
いや、むしろ溺死体とか妖怪濡れ女とでも行った方が適切な表現かも知れない。
作品名:盲想少女 ガラシャさん 作家名:a-isi